デモは新たな時代のシグナル。日本企業へは追い風!

2013年 07月 19日

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Mega Brasilのビジネスコーナーでは、日本からではわかりにくいブラジルビジネスの現状を解剖・可視化し、日本のビジネスパーソンにも分かるように翻訳。すぐに明日からブラジルとのビジネスに役立つ情報を提供していきます。ブラジル-日本間のビジネスを成功に導く、ノウハウを満載したサイトを目指します。

<誤解され続けるブラジル>

ブラジルは、一度訪問した人は、そこがジャングルではなく、前近代的でもなく、不衛生でもなく、黒人中心でもなく、欧米の大都市と変わりがないことを知っている。しかし、その現状を、「アマゾン」「サッカー」「リオのカーニバル」の国と思っている人に説明をするのは、なかなか難しい作業である。

同時に、ハイパーインフレ時代のブラジルで痛い目に会って、そこでブラジル情報のアップデイトが終わった現在の経営中枢の方々に、あの頃がうそのようにすっかり生まれ変わったブラジルを信じてもらうのも、一苦労である。

どちらにしても、誤解され続けているのがブラジルだ。

日本が誤解をしている間に、欧米の大企業および韓国企業は20年前のレアルプランで、それまで年率3000%のハイパーインフレだったのが、見事にピタッとインフレが止まったのを見逃さなかった。

日本企業はハイパーインフレに懲りて、それが収まる前にさっさと退出してしまい、その後の姿をチェックしていなかった。それは同時に、もともと1950年代から多くの国家プロジェクトを共同で行い、150万人とも言われる世界最大の日系人コミュニティを抱え、日本企業・政府との蜜月期間が長かったブラジル側にも、どんどんと大型投資をしてくれる欧米、韓国・中国企業・政府とのランデブーが始まり、日本離れが進んでいくきっかけでもあった。

そして、この20年間大型投資を続けた欧米韓企業は、大きなマーケットシェアを取り(日本企業から奪い)、投資をすればするほどリターンも大きいブラジルビジネス成功の方程式も出来上がり、毎年大枚を配当として本国へ送金するフローが完成したのである。

欧米のメガ・カンパニーの関心はすでに次なるフロンティア=アフリカに向かっている。そう、20年前はラテンアメリカが彼らのフランティアだった。そして、見事に開拓を終え、今は収穫期である。確保したシェアによる寡占化で、高利益を享受しているわけだ。

<デモは新たな時代のシグナル>

約20年前のブラジルの経済成長に向けた号砲は、実はコロル大統領の辞任を要求したデモであった。あのデモがきっかけで、カルドーゾ大統領が生まれ、今の経済発展につながった。そして、20年を経た今回のデモは、まさに次の成長期に入るシグナルだったのではないかと思っている。

デモの参加者の要求は、「汚職反対」であり、政治家へ流れているお金を止めて、「交通機関などのインフラの充実」「医療の充実」「教育の充実」を求めている。しかも、80兆円のPAC2(ブラジル成長加速プログラム第2)が既にスタートしており、計画されている公共事業は目白押しである。

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ブラジルのデモは危険で、カントリーリスクが高まったように伝えているのは報道の誤りである。これは大きなチャンスの始まりだ。こんな小さな子まで参加しており、実に平和的なデモであった。20年前のデモで道端に寝ていたのはストリートチルドレンたちであった。しかし、今は違う。眠くて、ブラジルビジネスの中心地であるパウリスタ大通りで寝てしまった、この子たちの未来が楽しみである。

<再び日本に風が吹き始めた>

20年の空白期間を経て、再びブラジル政府の目が日本に向き始めた。この20年間は、話ばかりでなかなか投資せず、いよいよかと思ったら、慎重に少しずつ投資をする日本よりも、決断が早く、大規模に投資をする欧米韓からの投資をがぶがぶと飲みこみ、かたや中国からの安かろう、悪かろう商材をどんどんと胃袋に流し込んできた。

同時に、国内企業保護策を実施したため、ブラジル企業による設備投資やイノベーションが積極的に行われない20年であった。そのため、工業化が進まず、効率化が行われず、需要に供給が追い付かず、それを輸入で賄うために、産業が育たない負のスパイラルに陥っている。

この20年で所得が増え、1億人を超えた中間層たちは、ほとんど欲しいものは手に入れた。中国製品は安かろう、悪かろうで長持ちしないことを知り、中国企業と仕事をした多くのブラジル企業やブラジル人は痛い目に会い、2度と一緒にビジネスをしたくないと言っている人が増えた。そして、政府も輸入や国内企業保護だけでは、産業のイノベーションが起きず、企業の国際化もできず、雇用も生まれないことがわかり、先進国からの技術移転、ノウハウの取得、国内産業の育成に大きく舵を切り始めた。

これは、20年ぶりにめぐってきた日本企業のチャンスである。おいしいマーケットは欧米韓がかなり刈り取ったが、ブラジルの成長はまだまだこれからである。彼らにまだ手をつけられていない市場はたくさんある。ブラジル政府がこちらを向いている今がチャンスである。

<日本企業にはチャンスがいっぱい>

Mega Brasilでは、ブラジルが今、日本に求めている技術、市場が空いている分野、日本企業が成功する可能性が高い領域を随時紹介していきたい。今回は、その主だったものだけを列挙してみたい。

【インフラ関連投資】

1.電力
電力は現在(2013年3月)の時点で供給ギリギリのラインである。ブラジルの2020年までのエネルギー拡大プラン(PDE2020)には大規模な電力投資が予定されている

①水力発電
水力発電所も新しい入札がいくつも行われており日本の商社等も参加している。
②マルチ発電
今後最も期待ができるのはその他の発電方法であるが主に、風力発電、バイオマス発電、ガス発電などである。2020年までのニーズは10813MWとエネルギー研究社(EPE)は発表しており主に民間企業が提供する方向である。
③送電
送電も国の予算(R$60.5Billion 2011~2020年)の内R$22.5Billion はPAC2(ブラジル成長加速プログラム第2)で入札が始まろうとしている。

2.深海海底油田
ブラジルエネルギー情報局の試算では、深海海底油田(プレサル)発見前の2006年のブラジルの石油生産量は約190万バレル/1日で世界の産油国のベスト10にも入っていなかった。
だが25年後の2020年には550万バレル/1日に増加し、ブラジルは世界のトップ5に入ると予想されている。2007年に発見された油田の多くは水面下7000メートルあたりに位置しているため、石油を掘り出すには、様々な高度技術が求められる。海流や凍りそうな水温や猛烈な水圧、そして泥や砂、石や岩塩と戦って掘り進まなければ石油にたどり着かない。ブラジル最大の石油採掘会社ペトロブラス社も大きな投資を行っており上記の課題を解決する技術等を日々求めている。
ブラジル政府のPAC2では約2500億USドルの予算が予定されている(2013年3月現在)

3.通信
外資系通信関連会社にとって現在のブラジルは多くの投資チャンスが存在する。
①モバイルインターネット(3G):2012年にはインターネットへのモバイルアクセスが96%増えている
②モバイルインターネット(4G):2013年には新しいモバイルインターネット技術の4Gが展開される。主にワールドカップ、オリンピック開催時に拡大される予定である。
③農村インターネット:ブラジルは450Mhzの周波数を農村ブロードバンド接続用に指定した。
④新しい有料テレビ法:ブラジルはまだ有料テレビの普及が25%であるため、大きく拡大する可能性がある。
⑤ブラジル・ブロードバンド・プロジェクト(PNBL)
このプロジェクトはブラジルでブロードバンド普及率を上げるために、連邦政府によって立ち上げられた。直近の目標は2014年までに、さらに4200万世帯にブロードバンドインターネットアクセスを増やす事である。範囲に展開することが可能である。
⑥光ファイバー
ブラジルには民間企業が大きな光ファイバーバックボーンを大都市の間に引いているが、このプロジェクトのためにテレブラス社は新たなるバックボーンを敷設する。
⑦通信衛星
上記のPNBL及びブラジル国防用に新たなる通信衛星が必要となり、ここにもビジネスチャンスが多く発生する。

4.物流&ロジスティックス
ブラジルは、2013年2月のせっかくの豊作をインフラ不足で世界に輸出する競争力を失っているため、ブラジル政府も急いで解決策を求めている。

5.港
今現在ブラジルで最も問題となっているインフラ項目である、浚渫、ターミナル増設、システム導入等多くの課題がある。

6.医療機器
一部の再生医療分野などで進んだ研究なども行われているが、ほとんどが外資頼みである。病院内の設備投資も、やはり20年前で止まっていたため、現在国としても大きく予算を割いて、古くなった設備の入れ替えを行なっており、非常に盛況な市場となっている。

7.化粧品・生活用品
そもそも美に対する意識は高く、美容整形大国でもあるブラジルは、ハイパーインフレが収まり、ローンやクレジットで日用品が買えるようになり、美容市場は一気に爆発した。化粧品市場は、アメリカ、日本に次いで世界第3位となり、競争も熾烈になってきている。

8.食品・お菓子・飲料
スーパーに行って食品、お菓子、飲料の売り場にいくと、それなりの種類とメーカーがあるように見えるが、いずれもバリエーションに乏しい上に、日本とあまり変わらない値段がしているものが多い。

9.自動車部品
すでに年間販売台数が300万台を超え、世界第4位となったブラジルの自動車産業。しかし、輸入関税が高く、国産保護策があるブラジルで出遅れた日本メーカーのシェアは、全社合わせても10%以下である。国内調達率を上げて、関税を下げたいところであるが、進出部品メーカーもまだ少なく、サプライチェーンが完成しない。同時に、欧米の自動車メーカーも、日本の部品メーカーのシェアは国際的に高いため、最新技術をブラジルに導入するには日本の部品メーカーの存在は欠かせない。中でも、現在力を入れているのが、日本の部品金型会社の誘致である。イノヴァ・オートなどの税制優遇策を導入しており、日本の自動車部品会社にとっては、大きな進出のチャンスである。

11.家庭用小型農機具
ブラジルの農業は基本的には大規模化しているために、なかなか日本の規格に合わないが、近年栽培作物のバリエーションも増え、かつ小金持ちによる個人農業主も増加している。そのため、小型で、細かい作業ができる小型農機の需要が高まっている。

(写真/輿石信男)

著者紹介

輿石信男 Nobuo Koshiishi

輿石信男 Nobuo Koshiishi
株式会社クォンタム代表。株式会社クォンタムは91年より20年以上、日本とブラジルに関するマーケティングおよびビジネスコンサルティングを手掛ける。市場調査、市場視察のプランニング、フィージビリティスタディ、進出戦略・事業計画の策定から、現地代理店開拓、会社設立、販促活動、工場用地選定、工場建設・立ち上げ支援まで、現地に密着したコンサルテーションには定評がある。11年からはJTB法人東京と組んでブラジルビジネス情報センター(BRABIC)を立ち上げ、ブラジルに関する正確な情報提供とよりきめ細かい進出支援を行なっている。
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