さっそくデモの効果? アーバン・モビリティにブラジル政府2兆円の投資増額

2013年 08月 18日

urban mobility

8月13日付の「バロール」紙によると、アーバン・モビリティに対して各州・市などが総額3兆円の投資提案を提出したらしい。

これは、もともとアーバン・モビリティに対しては890億レアル(約3兆7000億円)の投資が決定されていたが、これに最近ジルマ大統領が500億レアル(約2兆1千億円)の増額を発表したため、それを受けて各州・市が要求を出したようだ。

関係者によると、増額の話はだいぶん前からあったそうだが、実施されるかどうか検討中のはずだったものが、かなり前倒しとなって発表されたようだ。しかも、細かく各州・市ごとに提案を受け付けており、各地のデモの要求の一つが劣悪な交通インフラの解消だったことを考えると、以前のコラムでも予測していたが、早くも企業にとってプラスの影響が出始めたと言える。

各州の要求額を見てみると、最も多いのがやはりサンパウロ州で約7770億円、3位がミナスジェライス州の約3000億円、4位以下がパラナ州、ブラジリア、リオ・グランデ・ド・スル州、リオデジャネイロ州と順当だが、なぜか第2位がマラニョン州でなんと約3200億円もの予算提案をしている。

マラニョン州の内容としては、州政府は首都圏の自治体向けにLRT(ライト・レール・トランジット)やBRT(バス・ラピッド・トランジット)の回廊整備を含め、65.5億レアル(約2750億円)を、そして州都のサンルイス市はLRTとバスの導入に、11.5億レアル(約480億円)を要求した。

しかし、ブラジルの問題はここからである。サンパウロやリオ、ミナスジェライス、パラナなどの州や州都は、近代化の多くの経験が州、市政府に蓄積されており、予算も人材も豊富なため、すぐにでも予算を取りこんだ体制づくりが始まるが、問題は地方である。これまでも、多くの予算が実は地方に振り分けられていたにも関わらず、都市計画や近代化を推進する人材・経験不足でまともな企画書や計画書が作成できず、結局政府から最終承認が下りずに実行できないケースが多かった。

同時に、欧米や日本の大手企業も大都市の公共工事を中心に動いているため、地方まで手が回らない。特にイノベーションを伴う高度なテクノロジーが必要な分野は、先進国の民間企業と組まなければ、どうしても導入・運営まで漕ぎ着けることができないわけで、今回の増額分も審査が厳しく、提案内容が良くなければ政府も予算を実行しないため、画餅に終わる可能性が高い。

マラニョン州のみならず、別表の通り今回は、セアラ州約1200億円、アラゴアス州約960億円、ピアウイ州約840億円と、多くの貧しい、地方の州が大きな予算を要求しているが、とても同時にこれらの州が同じような内容を実現できるとは思えない。本来なら、ここで日本の中堅・中小企業の出番となるはずである。これらの州政府と組んで、交通の近代化に取り組めば、大きな社会貢献になるとともに、日本の中堅・中小企業にとっては日本の不景気を吹き飛ばす大きな収益が上がるはずである。

アーバン・モビリティの技術を持っている日本企業でブラジルに取り組む気概のある日本企業はないものだろうか?

アーバンモビリティに対する各州の要求額
略称 /州名 /金額(BR$) /日本円換算
1 /SP /サンパウロ州 /BR$18.5 /7770億円
2 /MA /マラニョン州 /BR$7.7 /3234億円
3 /MG /ミナスジェライス州 /BR$7.3 /3066億円
4 /PR /パラナ州 /BR$6.6 /2772億円
5 /DF /ブラジリア /BR$4.8 /2016億円
6 /RS /リオ・グランデ・ド・スル州 /BR$4.7 /1974億円
7 /RJ /リオデジャネイロ州 /BR$4.65 /1953億円
8 /PE /ペルナンブコ州 /BR$4.5 /1890億円
9 /BA /バイア州 /BR$4.2 /1764億円
10 /CE /セアラ州 /BR$2.9 /1218億円
11 /AL /アラゴアス州 /BR$2.3 /966億円
12 /PI /ピアウイ州 /BR$2 /840億円
13 /PA /パラ州 /BR$1 /420億円
14 /AM /アマゾニア州 /BR$1 /420億円
15 /PB /パライバ州 /BR$0.91 /382.2億円
16 /RN /リオ・グランデ・ド・ノルテ州/BR$0.87 /365,4億円
17 /GO /ゴイアス州 /BR$0.74 /310.8億円
18 /MS /マットグロッソ・ド・スル州 /BR$0.04 /168億円
その他 /BR$0.69 /289.8億円
総額 /BR$75.4 /3兆1,668億円

(文/輿石信男、表組制作/クォンタム、写真/麻生雅人)
セグウェイによる二輪の電気自動車。ミナスジェライス州ベロオリゾンチでは2010年の時点で市の保安官が導入していた

著者紹介

輿石信男 Nobuo Koshiishi

輿石信男 Nobuo Koshiishi
株式会社クォンタム代表。株式会社クォンタムは91年より20年以上、日本とブラジルに関するマーケティングおよびビジネスコンサルティングを手掛ける。市場調査、市場視察のプランニング、フィージビリティスタディ、進出戦略・事業計画の策定から、現地代理店開拓、会社設立、販促活動、工場用地選定、工場建設・立ち上げ支援まで、現地に密着したコンサルテーションには定評がある。11年からはJTB法人東京と組んでブラジルビジネス情報センター(BRABIC)を立ち上げ、ブラジルに関する正確な情報提供とよりきめ細かい進出支援を行なっている。
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