コットンペーパーに宿る異界のようなアマゾンの息吹。荒川幸祐写真展「アマゾン – サンタレン」

2013年 10月 9日

アマゾンサンタレン展

駐日ブラジル大使館で、ブラジル在住の写真家・荒川幸祐さんの写真展「アマゾン – サンタレン」が開催中だ。

荒川さんは1981年京都市生まれ。関西外国語大学在学中にカポエィラを学んだことがきっけでブラジルを訪問、数回の渡伯を経て、サンパウロの広告写真会社にアシスタントとして飛び込んだ。現在は独立して、フリーランスの写真家として活動している。

今回の写真展で展示されている作品は、サンタレン出身の友人に誘われ、現地の探索ツアーに参加した際に撮影したものだという。

会場に並ぶ写真はサンタレンの自然や人々の生活を撮影したものばかりだが、曇り空の写真が多い。曇ってはいても、光は決して弱くはない。どんよりとはせずに、シルバー(のようだけど決して冷やかではなく)光る光景は、やはりブラジル北部ならではの色彩なのだろう。

鈍く光る空を映し、どこまでも、ただ黙々と広がるアマゾン川が、独特の輝きを放ちながら、悠然とそこに「存在」する姿が写真に捉えられている。

「実際、雨季のアマゾン地方はこの写真のようにほとんど曇り空。そのままの姿といえばそのままの姿。でも、この光景から僕が想うこと、感じたことを写真に収めるためには、この光の加減が良かったんです」と荒川さんはいう。

乾季の晴れた日のアマゾンは光があまりに強く、陽が当たるところと影になるところのコントラストが強すぎて、それだけで風景がものすごくインパクトのある画になってしまうのだという。

ボートをこぐ少年や、川に飛び込もうとしている少年など画面に登場する人物たちの肉体は、カラー写真ではあるけれどこの独特の色調で映し出された結果、モノクロ写真のように筋肉のつき具合が生々しく描き出され、被写体の生命力や肉体の躍動感がリアルに伝わってくる。

同時に、この色調の中で絶対的な存在感を放つアマゾン川は、どこまでもどこまでも存在して、まるで終わりがないように思えてくる。この川と人々との関わりを映す画は、まるで神話の世界をのぞいているような気分にもさせられる。

また、この展覧会の作品のプリントに、荒川さんは、コットンペーパーを使用している。絵画のようにオーガニックな感触で、きめ細かく繊細に、写真の中の世界が映し出されている。

「撮った瞬間から現実そのもではなくなり、撮影者の想いや写真を見る人の想いによって屈折していく写真は、ひとつの画像の中に、たくさんの意味を持つ」という荒川さんにとって、写真そのものが多くを語りかけることができるこの色調とコットンペーパーの質感はこれ以上ない組み合わせのようだ。

「サンパウロで活動する写真家の間でコットンペーパーを使うのは、近年、主流となっています。それは、いわゆるステロタイプのブラジルをイメージした写真ではなく、都市生活者の目線でリアルに描こうとする表現には、この質感が一番マッチしているからだと思います」

例えば、ほんの些細な陰影が持つ、畏怖すら覚える果てしない力、であるとか。この写真展の作品を実際に目のあたりにすると、インターネットの画像とはまったく別物といってもいいくらいの質感を前に、さまざまな想いが力強く、巡るはずだ。

荒川幸祐 「アマゾン – サンタレン」 写真展
Kosuke Arakawa “Amazon – Santarém” Photo Exhibition
Exposição de fotografia na Embaixada do Brasil em Tóquio.
会期 2013年9月30日(月)~10月18日(金)
時間 9:30~13:00, 14:00~17:00
会場 ブラジル大使館
休館日 土日祝日
料金 入場無料
主催 駐日ブラジル大使館 (http://www.brasemb.or.jp/embassy/access.php)
お問合せ Tel 03-3405-5844

(写真・文/麻生雅人)