2013年はブラジルの国産映画の製作本数が過去最高に

2013年 11月 22日

ファロエスチカボクロ

2013年、ブラジルの国内映画は115作品が公開されてシーズンを終えようとしていると、11月11日付け「エスタダォン」(電子版)が報じている。この数字は20年前頃に起こったヘトマーダと呼ばれる国産映画振興が興ったころにも実現できなかった数字だという。これまでの年間の制作本数も、平均80作品くらいだという。

男優が母親役を務めるコメディ映画「Minha Mãe é Uma Peça(ミーニャ・マンイ・エ・ウマ・ペッサ)」(アンドレ・ペレンス監督、パウロ・グスターヴォ主演・脚本)は450万人、ドジな7人組がドタバタを繰り広げる犯罪コメディ「Vai Que Dá Certo」(マウリシオ・ファリアス監督)は270万人の観衆を集める大ヒットとなったが、それだけがヒットしたわけではない。

同時に10~50万人を集客する中規模ヒット映画も多く、ドラマ「A Busca(ア・ブスカ)」(ルシアーノ・モウラ監督、ヴァギネル・モウラ主演)が35万1000人、70年代のセアラー州を舞台に、映画への愛を描いたコメディ「Cine Holliúdy(シネ・ホリウッディ)」(アウデール・ゴメス監督、エヂミウソン・フィーリョ主演)が45万人を集めた。後者には「ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃」のポスターも登場する。

国産映画市場は18.8%となり、昨年の同時期の数字8%や年末の集計10.6%を大きく上回ったという。興行収入は2億4000万ヘアイス(レアル)(約106億円 ※為替は11月20日現在、1ヘアウ(レアル)=44.151609円で換算)で、昨年の1億ヘアイスから倍以上となった。

ブラジルの映画市場調査会社「フィウミ・ベー」が運営するポータルサイトのディレクター、パウロ・セルジオ・アウメイダ氏は「今年はブラジル映画が強力な年でした。何も問題が起きなければ、この傾向は今後も維持されるか伸びるでしょう」と分析した。

今年、最もよく見られた長編国産映画8作品のうち、5作品はコメディだった。先頭に立ったのは2012年の12月末に公開された「De Pernas pro Ar 2(ジ・ペルナス・プロ・アール・ドイス)」(ホベルト・サントゥッシ監督、イングリッジ・ギマランイス主演)で、この映画は470万人に見られた。

また、パウロ・グスターボ、ファビオ・ポルシャ、グレゴリオ・ドゥヴィヴィエール、漫談師ブルーノ・マゼオといった新世代のコメディアンたちの活躍も目覚ましく、劇場やTV、インターネットなどでも活躍した。これらは今後も人気が伸びていくとみられている。

「私は、2013年が特別な年だったというわけではないと思う。新中間層の動員が大きかったと思う。ブラジルの人々はますます国産映画、特にコメディ映画を受け入れつつあります。でもその流れは限定的なもので、すぐに終わると私は思います。世界中で映画のジャンルはコメディだけではありませんから」と、映画監督のアントニオ・カルロス・ダ・フォントウラ氏は分析した。

非コメディ映画では、黒人青年と白人娘の愛を巡るドラマ「Faroeste Caboclo(ファロエスチ・カボクロ)」(ヘネ・サンパイオ監督、ヘナート・フッソ原案、ファブリシオ・ボリヴェイラ、イシス・ヴァウヴェルヂ主演、写真上)は150万枚チケットを売り、並み居るコメディを差し置いてランクインした。ちなみにこれは、80~90年代に大活躍したロックバンド、レジアォン・ウルバナのヘナート・フッソの歌にインスパイアされて生まれた映画。

フォントウラ監督の手掛けた「Somos Tão Jovens(ソーモス・タォン・ジョーヴェンス)」は、そのヘナート・フッソを主人公にした伝記ドラマだ。「Faroeste Caboclo(ファロエスチ・カボクロ)」の上を行き、ランキングでは5位で、170万枚を売った。

ただし、コメディだけが映画ではないと語るフォントウラ監督自身、コメディ映画「Radical Chic(ハジカウ・シッキ)」に取り掛かっている。同映画は、劇作家、漫画家、脚本家ミゲウ・パイーヴァの生んだキャラを映画化したものだという。

50年近く活動しているがこれまで爆発的なヒットを経験したことがなかった同監督は「Copacabana Me Engana(コパカバーナ・ミ・エンガナ)」(68年)、「A Rainha Diaba(ア・ハイーニャ・ヂアーバ)」(74年)などでも知られるベテラン監督だ。

パウロ・セルジオ・アウメイダ氏は、中規模ヒット映画がシーンの主役となっていることを強調した。

「(10~50万人を集客する)中規模ヒット映画は今年は15作品ありましたが2012年にはありませんでした。ブラジル映画では、大ヒット作か大コケか、という両極端な現象はなくなりつつあります」(パウロ氏)

「ブラジル映画を長期的に見ていく上で、現在はまさに発展を始める黎明期といえます。いい映画というのはいつ公開されるかが決定している映画だとグラウベルも言っています。配給会社や映画を提示する側の人たちが求めている、ということですから。2014年には、35作品がすでに公開が決まっています」(パウロ氏)

ホベルト・サントゥッシ・フィーリョ監督は、中規模ヒット映画に対して戦略的だ。昨年公開された「Até que a Sorte nos Separe(アテ・キ・ア・ソルチ・ノス・セパリ)」は、2012年に国内の動員1位(330万人)だった。そして年始に大ヒットした「De Pernas pro Ar 2(ジ・ペルナス・プロ・アール・ドイス)」に続き、6月に公開されたコメディ映画「Odeio o Dia dos Namorados(オデイオ・オ・ヂア・ドス・ナモラードス)」は46万人の動だった。

「今まで長蛇の列が出来ていたのは合衆国から来た映画ばかりだったが、私は国産の中規模ヒット作品を、長蛇の列ができるような存在にしていきたい。コメディに限らず、多様な国産映画を作っていくことはブラジル映画界にいい結果をもたらすでしょう」(ホベルト・サントゥッシ監督)

ブラジル映画の復興は、90年代の中ごろにも一度、盛り上がっている。1993年に「オーディオ・ヴィジュアル法」が施行されて資金助成制度が整ったり、同じころから文化活動を支援する民間企業の税軽減政策なども行われるなど、政府による映画産業のバックアップもあり、国産映画の製作本数は確かに増加した。

しかし「エスタダォン」紙は、こういった今年のブラジル映画界の活況を、国内映画振興運動が盛り上がった頃など、これまでのブラジルの映画界と比較することは難しいという。なぜなら、10年前においても、当時評価されたのは制作本数であって、実際に上映された数ではなかったからだという。

1995~98年にブラジル文化省文化支援局長、99~2002年に同省映像文化局長を務めたジョゼ・アウヴァロ・モイーゼス氏によると、「1995~1998年に制作・公開された80本の作品のうち、わずか10本ほどしか制作費と同等以上の興行収入を記録していない」という(「The New Brazilian Cinema」ルシア・ナジビ編・プチグラ・パブリッシング)。

また、経済が安定して映画を取り巻く環境も良くなり、映画にお金をかけることが簡単になった。映画館もデジタル化され、配給も簡単になった。もちろん映画の質も良くなった。そして、出ている俳優が皆に知られていて、字幕もない国産映画を好む中間層が購買力をつけてきたことも現在の映画界を支える大きな要素だ。

「この15年で、音響など劇場の設備やサービスが格段によくなりました。ブラジルの国産映画のイメージは見違えるほどよくなりました。こんなにも映画にお金をかけることはこれまでもありませんでした。(1970年代にあった)ブラジル映画公社があったころよりも。観客は青年から大人まで、多くのブラジル人が映画をみています。まだ子供の動員は多くないですけど」とパウロ・セルジオ・アウメイダ氏は語った。

(文/麻生雅人、写真/Imagem do filme ‘Faroeste Caboclo’. Foto: Divulgação)