「踊る! ブラジル 私たちの知らなかった本当の姿」発売

2014年 03月 16日

ODORUBRASIL

ブラジルを訪ねて写真を撮り続けている、ニューヨーク在住の写真家、ジャーナリスト田中克佳氏が、自身の写真と文章でブラジルを紹介した書籍「踊る! ブラジル -私たちの知らなかった本当の姿-」を3月上旬に小学館から発売した。

ニューヨークを拠点にしながら、ブラジル、アルゼンチン、ペルー、チリ、スペイン、キューバなどラテン系の国々で長期撮影を続けている田中氏は、これまでにも「ニュートン」、「風の旅人」、JAL会員誌「AGORA」などさまざまな媒体で、ブラジルの多様な姿を写真と文章で紹介し続けてきた。2011年には、10年に渡る撮影をまとめた写真集「BRAZIL – The Poetry of Diversity」(Empresa das Artes)をブラジルで出版している。

「踊る! ブラジル 私たちの知らなかった本当の姿」は、これまで田中氏が発表した記事を大幅に加筆、書下ろし原稿を加えて構成されたものだという。

田中氏が初めてブラジルを訪れたのは2001年。以来、日本にはまだ紹介されていないブラジルの多様な顔を紹介し続けてきた。

今でこそテレビでも特集番組が組まれるほど有名になったレンソイス・マラニャンセス国立公園も、その魅力をはじめてビジュアルで日本に紹介したのは、今から12年も前、季刊誌「セブンシーズ」2002年8月号に掲載された田中氏の写真だったのではなかろうか。

まえがきで田中氏は、ブラジルに興味を抱いたきっかけが文化人類学者エルマノ・ヴィアナが記した「ミステリー・オブ・サンバ」だと語っている。

ブラジルのアイデンティティを形成している“人種や文化の混合”や、その歴史が“作られて”いった過程などを記した「ミステリー・オブ・サンバ」が入口とあって、田中氏は、被写体の表面の姿だけでなく、人であれ、建物であれ、祭りであれ、産業であれ、その被写体が辿ってきた歴史にも目を向け、彼がそこにある理由をも写し出そうとする。いわば本書は、田中氏による、ブラジル人のアイデンティティを探る旅の記録ともいえる。

たとえばこの本は、バイオエタノール産業などが紹介された、未来に羽ばたくこの国の姿を紹介する章で締めくくられているが、本の前半では、北東部のサトウキビ栽培の季節労働たちの現状を見せて、バイオエタノール産業を支えている、この国の歴史が作り上げた社会構造をも浮かび上がらせている。

そんな田中氏ならではの視点が最も表われているのが、“多人種国家の「化学反応」”と題された章だろう。ベリーダンス、イスラム系モスク、ウクライナやポーランドの民族衣装など、これまでブラジルを紹介する場ではまず見られなかった話題が満載だ。

この章の中で田中氏は、ブラジル同様移民大国のアメリカ合衆国が“人種のサラダボウル”であるのに対し、ブラジルは“人種のミックスジュース”か“人種のシチュー”だと語っている。サラダボウルとシチューという比較は僕自身もよく使うフレーズだが、ミックスジュースという表現は、シチューよりも、ブラジルに似合っている気がする。

そんな表現にも反映されているように、ブラジルに通い、この国の人々を、見つめ、接してきた田中氏ならではの目線がぎっしり詰まった本だ。

「踊る! ブラジル 私たちの知らなかった本当の姿」判型:A5判オールカラー144P、定価:1500円+税、発行:小学館

田中克佳(経歴)
写真家/ジャーナリスト www.katsutanaka.com
1965年、横浜生まれ。早稲田大学商学部卒業後、博報堂に入社。1993年に退社後、渡米。米国「ナショナル・ジオグラフィック誌」フォトグラファーのアシスタントを経て独立。北米、中南米、ヨーロッパなどをおもな取材対象に撮影を続け、日本、米国、ヨーロッパ、カナダ、ブラジルなどのメディアで発表を続けている。2005年には駐日ブラジル大使館と東京メトロ共催による写真展に参加した。

(写真・文/麻生雅人)
上記写真に写っているのは、イタリア系移民とドイツ系移民の祭りが紹介されているページ