Entrevista ホジェル・メロ

2014年 07月 8日

ホジェル・メロ ワークショップ

ホジェルさんの絵本の中には、ブラジル各地の伝説や人々の暮らしが題材となっているものも多い。

「ブラジルのすべての州を旅しました。研究のためではなく、もともと旅が好きなのと、朗読やワークショップを行うなど、文学のために各地を訪れました。でも、私の場合、旅には本と読書はつきものです。訪問地にまつわる本を何冊か持って行って、旅の途中に読むことは習慣となっています。その土地と自分との関係がより深まりますからね」

旅行先では実際に、土地に伝わる伝説の話を聞くこともあるという。

「その際に、土地に伝わる伝説や神話を知ることがあります。真実かどうかはさておき、伝説上の生き物に会ったという人もいます。それだけブラジルの各地にはさまざまな伝説が息づいているということでしょう」

実際に旅した先で見て、聞いて、感じたことを絵にする際に、作品によって絵のタッチも色もまったく異なる。

「ブラジルのどんな場所も、同じ色、同じ感触で描くことはできません。ましてや、パステルカラーで描くことなど私にはできません。多くの場合、どうしても私の好きな色が反映されますが、色はあくまでその題材によって異なるイメージで選ばれます」

題材によって、筆の種類など描く道具も、表現の手法も変わる。

「デリケートな内容のお話なら色鉛筆を使います。マングローブ林を舞台にしたお話「メニーノス・ド・マンギ」では、林に捨てられているビニール袋などのゴミの素材も絵の中にコラージュで取り込んで物語を進めています」

しかし、なんといっても色に対するイメージの自由さこそ、ホジェルさんの絵の最も大きな特徴かもしれない。たくさんの色を使った作品もあれば、限られた色で表現した作品もある。

「色そのものが意味をもっているとは、考えていません。大事なのは、色を目の前にしたときに、イメージに囚われることなく、その人がその色から、何をどう感じるかだと思っています。だから私も絵を描くときに色の意味に囚われずに、その時々で、感じた色を使います」

環境保全を題材にした「セウヴァージェン」という作品では、グレーの世界の中にポツンと存在するオレンジの虎が描かれ、ハードボイルド映画のイメージで、絶滅に瀕する虎が描かれている。

「例えば、赤は、必ずしも血を意味するとは限りませんし、血を表現するのに緑を使うことだってありえます。国や文化の背景によっても色の捉え方は異なります。日本に来て、私は赤という色に神聖な雰囲気を抱きました。この色は神社の鳥居にも使われていますね」

とりわけ、多様な文化が混じり合っているブラジルでは、ひとつの色が持つ意味も多様なのだともいう。

「ブラジルにおいては赤という色はアフリカをイメージする人もいるかもしれないし、赤と黒の組み合わせで先住民族をイメージする人がいるかもしれない。ブラジルの国の由来になっている木(パウブラジル)からとれる色も赤ですね。有名な画家のカリベは、バイーアにパッションを抱いて赤を多用しました。同じ赤でも様々なイメージがあります。ヨーロッパ、アフリカ、先住民族など、多様な文化や価値観が折り重なっているこの国では、色をひとつとっても様々なイメージに受け取ることができます」(次ページにつづく)

(写真・文/麻生雅人)
写真は安曇野ちひろ美術館。来日したホジェルさんが開催したワークショップ(5月17日)で描いたイラスト。ワークショップには親子連れから若いカップルまで様々な人が参加。絵や文章で、ブラジルの友達に送る手紙を制作した