ブラジルを揺るがす石油公社贈収賄事件と、日本の政治献金問題との規模を比較してみた

2015年 03月 22日

ペトロブラス

2014年からブラジルの政財界を巻き込んでいる国営石油公社ペトロブラスを舞台にした巨額の贈収賄事件の捜査は、これからが本番であるが、日本の国会で現在問題となっている献金問題とは似て非なるものだ。

数十万円で大問題となって大臣が辞任する日本に対して、ブラジルはまだ金額は確定しないが数百億円-数千億円単位と見られる連立与党すべてを巻き込んでの事件である。

もちろん、ルールはルール、法律は法律であるが、GDP(国民総生産)や年間国家予算がブラジルの約2倍の日本において、数十万円の献金が国会を空転させるほどの問題であるのか、ブラジル側から見ていると疑問に思えてくる。

翻ってブラジルはブラジルで、何百億円ものお金を還流させておきながら、それを主導した労働者党が未だに政権に居座っている。その感覚が日本からすると理解できない。

すでに、ペトロブラスの大型工事を請け負った大手ゼネコンの経営層のほとんどが逮捕され、6社で45億レアル(約2000億円前後)の賠償金および罰金を連邦検察が要求しているが、日本の政財界を揺るがしたロッキード事件が10億円程度であったことを考えると、ブラジル人の金銭感覚はどうにかしている。

ペトロブラスが国内に建設している製油所の一例を挙げると、当初の建設予算額が20億ドル(約2425億円)で収益見込みが毎年30億円程度の黒字見込みであったものが、何度も更新されて、最後は信じられないことに工事費が180億ドル(約2.2兆円)で、利益見込みが毎年300億円前後の赤字になっているにも関わらず、現ジルマ(ジウマ)・ルセフ大統領を始めとする政治家がサインをして認可されているのである。10倍に膨らんだ予算から、相当額が政治家に還流しているとしか考えられないだろう。

しかし、もう一般市民は慣れっこになっている面もあるし、支持基盤の低所得者層も合法的にボウサ・ファミリア(生活扶助制度)というセーフティネットのバラマキをもらっているので、おとなしい。野党も与党時代を掘り起こされて叩けば埃が出てくる可能性があるのか、追及もあまり厳しくない。

ペトロブラスはアメリカ(合衆国)でも上場しているので、すでにアメリカ(合衆国)のSEC(証券取引委員会)も調査に乗り出しており、この事件はブラジル国内だけの問題ではなくなっている。今回は、メンサロン事件(ブラジル政治史上最大の汚職事件)に続いて、ブラジルの検察庁がようやく政治家に手が届いた歴史的な事件ではあるが、国内問題だと与党のパワーを使って最後はうやむやになることも多々あるため、今回は米SECの追及にぜひ期待したいところである。

(文/輿石信男/クォンタム、記事提供/モーニングスター、写真/Fernando Frazão/Agência Brasil)
写真はリオデジャネイロ市、ブラジル石油公社(ペトロブラス)本社