病院にも外資が参入か? 外資のブラジル投資が増加。レアル安も後押しか

2015年 09月 22日

病院が買い時

現地紙「エスタード・ヂ・サンパウロ(以下「エスタード」)」の電子版「エスタダゥン(Estadão)」が9月11日付で伝えたところによると、医療業界への外資参入を認める法律が施行されて以降、ブラジルの病院が外国のファンドや医療ビジネス界から熱い視線を浴びているという。

エスタード紙が関係筋からの情報として伝えたところでは、特に熱い視線を浴びているのはサンパウロ市イジエノーポリス地区にある「サマリターノ病院(Hospital Samaritano)」だという。

視線を浴びせているのは海外のファンド2社(KKR、Advent)、アメリカのユナイテッド・ヘルス社(United Health)の傘下にあるブラジルのヘルスケア複合企業アミウ社(Amil)とブラジルの大都市圏で私立病院運営を行うドールグループ(Rede D’Or)だという。この4者と病院の交渉は順調に進んでいるとのことだ。

サマリターノ病院は当初、富裕層から絶大な支持を得ているサンパウロのアウベルト・アインスタイン病院に資本提携を持ち掛けたが、話が進まなかった。今回、相手を変えた臨んだ交渉は前に進みつつあるという。

資金援助を受け、もしくは経営陣が変わることにより、非営利機関だったサマリターノ病院は営利事業体となる。投資金額はまだ確定はしていないものの、関係筋によるとおそらく10億レアル前後とみられている。

関係筋はさらに続ける。

サマリターノ病院はアウベルト・アインスタイン病院と独占交渉権を得て交渉を行っていたものの、話がまとまらなかった。アインスタイン病院にとってはサマリターノ病院は戦略的に重要だ。ユダヤ人コミュニティの地域にある一流の病院で、市の中心部にあるためだ。

1894年に設立されたサマリターノ病院は診察までの待ち時間が少なく、心臓病、神経疾患、がん、泌尿器疾患そして移植医療の専門性に定評がある。にもかかわらずアインスタイン病院とサマリターノ病院の協議は不調に終わった。

ブラジルの投資複合企業BTG Pactual(以下「BTG」)を経営陣に持つドールグループが交渉に乗り出した。ドールグループは今年、アメリカ合衆国のファンド、カーライルとシンガポールのファンド、GICから多額の投資を受けており、サマリターノ病院の資本提携の有力な候補先に浮上した。

カーライルからドールグループへの出資額およそ17億5千万レアルは、投資資金としてほぼそのままドールグループの懐に入った。出資の時点で、ドールグループの時価総額は200億と評価されていた。リオで存在感を持っているドールグループはサンパウロでのビジネスチャンスをうかがっていた。情報筋いわく、サマリターノ病院はドールグループにとってはAクラス層向けのビジネスという方針に適合した案件だったという。

現在、ドールグループはリオデジャネイロ、サンパウロ、ブラジリア連邦区、ペルナンブーコにビジネス拠点を持っており、無理のない成長を遂げつつある。グループは自社の持つ病院27カ所、グループ外の2病院の管理を行っている。

アミウ社の後ろ盾となっているユナイテッド・ヘルス社も出資議論に参画している。関係筋によると、アミウが現在診察を行っている患者たちの層にとっては異次元に感じるような内容で協議は進んでいるという。

アドベント(Advent)、KKRのファンド勢は法令の改正により参入が可能となったが、現在は医療業界の収益性についてつぶさに調査しているところだ。ちなみに改正された法令というのは1月に公布された13-097のことである。

この法令改正により、経営への関与も含めた病院・研究室への資本参加が外資に認められた。

アインスタイン病院はサマリターノ病院との資本提携交渉をしていたことを否定した。リオデジャネイロに医療複合施設を持ち、傘下に30の病院を持つアミウ社は、市場の推測や噂に対してはコメントはできないという。ファンドのKKR、アドベントはインタビュー申込に応じていない。ドールグループ同様にサマリターノ病院もコメントを控えている。

軸外の動きとしては、アドベントやKKRといった投資ファンドはリオデジャネイロとサンパウロ以外の都市の病院買収に興味深々だ。投資ファンドは農業企業体が集中するブラジル中西部と北東部の一部の中堅病院への投資機会もうかがっている。

投資ファンドのアドベント、KKRそしてカーライル(ドールグループの資金元)が関心を示すのにはわけがある。アメリカ合衆国のコンサルティング会社マッキンゼーがカーライルの委託を受けて行った調査によると、ブラジルの医療セクターの経営効率はまだ低いことが分かった。ブラジルの各病院の平均ベッド数が64に対し、アメリカ合衆国では各病院の平均ベッド数は161で、受け入れ患者数はブラジルの3倍近い数だという。

(文/余田庸子、写真/Fernanda Carvalho/Fotos Públicas)