第28回東京国際映画祭、ブラジル映画「ニーゼ」がグランプリ受賞。グロリア・ピリスは最優秀女優賞

2015年 11月 1日

ホベルト・ベリネール監督

「私達(映画の作り手)は、賞を取れるかもしれない、とある種期待しているところがあります。しかし他にも良
い映画が沢山ありますし、個人的な趣味もありますので、実際に受賞できるかどうかは、そのチャンスによってではあるかと思います。映画を作っていると、良い映画になることもあるし、そうではないこともあります。しかし、今回の映画を作っているときに、これは何か特別なものを扱っているんだ、という感触がありました。たとえ、賞を受賞しなくとも、この映画を作れたことで十分に幸せなんですが、こうやって賞を頂いてみますと、更に世の中に紹介されるチャンスが広がったであろうと、非常にワクワクしています。また、この映画の“質”を認識してくださった審査員の方々にお礼を申し上げたいと思います」(ホベルト・ベリネール監督)

主演女優賞を受賞したグロリア・ピリスには、メールで報告したがまだ返信はないと語った。

「メールを送ったんですが、寝ている様で、まだ返信はありません(笑)。最初、実は他に主演を演じてくれる女優さんがいたんです。健康上の問題で、途中でやめる事になってしまいました。では、誰にしよう、と言う話になり、グロリアの名前が上がりました。彼女はブラジルでは有名な女優なので、難しいのではないかと思ったのですが共通の友人がいましたので、とりあえずその友人に脚本を渡し、友人が彼女に脚本を見せてくれたんです」(ホベルト・ベリネール監督)

グロリア・ピリスにこの映画への出演を進めたのは、夫でありシンガーソングライターのオルランド・モライスだったという。

「最初はグロリアは脚本を読んではくれなかった。しかし、彼女の夫がその脚本を読んで、グロリアに『この映画をやりなさい』と言ってくれたんです。(ブラジルの中でのこの映画の位置づけとして)最初は小さめの映画かな、と思っていましたが、大スターのグロリアが出てくれたこともあって、中規模くらいかと思います。しかし、私が映画を作る時は、いつも大勢の皆が楽しめると思う映画を作っているんですね。沢山の人に観て頂ければ、私自身も非常に嬉しいですし、そうなると良いな、と思っています。この映画はそんなに難しくもないと思いますので、出来るだけ沢山の人に観て欲しいです」(ホベルト・ベリネール監督)

実在する人物を描いたドラマではあるが、グロリアは本物のニージ(ニーゼ)・ダ・シウヴェイラを真似するのではなく、独自のニーゼ像を作り上げたという。

「ニージ・ダ・シウヴェイラという女性は、ブラジルの北東部出身の方で非常に強い訛りのある人。最初は、グロリアにもその訛りを覚えてもらおうと思っていたが、途中でそれはやめよう、という事になりました。その代わり、彼女がもっていた意思や意図を表現していこうと話しました。では、どうやってニーゼを演じていこうかと話した時に、本人の真似では無くて、私達なりの“もう一人のニーゼ”というものを作ろうという話になりました。その中で、似せようとしなくても、その中で見えるもの、ニーゼになっていく事が非常に面白かったです」(ホベルト・ベリネール監督)

また、本作は完成までに13年を要したという。

「映画を作るのは、非常に大変でした。周りの人からもこの話は複雑すぎるので、きちんと伝えることは出来ない、やめなさい、と言われたんですが、この映画を作る事、ニーゼの事を伝えることは非常に大切な事だと思っていました。ニーゼは様々な仕事をしてきた人ですが、ブラジルの統合失調症の治療において非常に重要な役目を果たしました。私が彼女についてリサーチを始めた時に、この映画は作らなければいけない、と感じていました」(ホベルト・ベリネール監督)

「更に深くリサーチを進めると、ニーゼという存在が、私自身にどんどんと近づいてきたんです。リサーチの為に病院で過ごした事があったのですが、過去に彼女にお世話になった統合失調症の方にお会いしまして、更に、この映画を作らなければいけない思いが強くなり、それが 13 年の私の原動力になっています」(ホベルト・ベリネール監督)

13年の間には制作スタッフの降板や交代などもあり、当初は監督も自身が手掛けていたわけではなかったという。

「他の候補の監督もいたのですが、やはり自分でやる事にしました。一回やり始めたら辞められなくなってしまったんですが、かなり良い出来だと思うし、最後までやり続けて本当に良かったと思っています」(ホベルト・ベリネール監督)

この映画の制作しているときには、使命感も感じていたという。

「時々自分が、特別なことをしていると感じる時があります。まさにこの作品をつくっている時にそう感じました。でもそれ以上に私にとって大変な経験になりました。病院の精神科の患者と5ヶ月程一緒に過ごし、そして彼らは私たちと一緒に撮影に付き合い、そしてスタッフにもなり、キャストの一員にもなったわけです。こういった体験が私の人生を変えました。それは、この映画の中に全部出ています。もっともっと言いたいことはたくさんありますが、この映画を観て頂ければ、全部感じて頂けると思います。日本が本当に大好きです。皆さんに感謝をしています。ありがとうございました」(ホベルト・ベリネール監督)

(文/麻生雅人、写真/(C)2015 TIFF)
写真はホベルト・ベリネール監督