マイナンバー制度をすでに活用しているブラジルで起きている問題

2015年 12月 17日

パラナ州連邦地裁

例えば、ブラジルでは買い物の時に、現金で払ったら10%オフ、カードならば表示金額のままということがよくある。これは、現金であれば納税システムに引っかからないので、帳簿に載せなければ税金を払わずに済むという仕組みだ。その代わり、正式な領収書も出せない。

これくらいはまだ可愛いものだが、可愛いで済まないのが政治家である。

海外法人を設立したり、スイスに銀行口座を開設するなどして、ブラジル国内を通らずにわいろを受け取るというようなことが行われる。HSBCは自行のスイス支店に政治家たちの口座を開設し、本来は中央銀行に届けないといけないブラジルからスイスへの送金を何も届けず、税金も払わずに請け負っていたことが発覚し、ブラジル市場撤退に追い込まれた

個人や企業がお金を誤魔化せないように、確実に税金を徴収するための法律と仕組みを政治家たちが作り上げたわけが、その法律を作った側の人間たちが裏をかいて、脱税行為を行っていたわけだ。

もともと労働者階級の味方のはずの労働者党も、特権階級としての議員の座に就いた途端に、自分たちに有利になるような法律をつくり、一般の人たちからは少しでも多くお金を徴収し、自分たちはその法律を順守せず、私腹を肥やしていたわけだ。これでは法治国家とはいえないだろう。

今般のベトロブラスを舞台にした大型贈収賄事件では、クリチバという地方都市の検察が果敢に切り込み、これまでは聖域化していた政治家の逮捕、政治家のパトロンである大手ゼネコンの経営層の逮捕などを実行し、ブラジルの良識を示した。

ただ、これは真の法治国家になるための第一歩にすぎない。

この国の法治国家としての行方を決めるのは、いま争われている現職の大統領と下院議長の足の引っ張り合いがどのように着地するかによるだろう。どちらが勝つかなどは次元の低い話。双方とも明らかに法を犯しており、両者が制裁を受けなければならない。

(文/輿石信男(クォンタム)、記事提供/モーニングスター、写真/Orlando Kissner/Fotos Públicas)
ブラジル石油公社(ペトロブラス)贈収賄事件に切り込んだクリチーバ市にあるパラナ州連邦地方裁判所

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