“本の巣箱”、リオの貧困コミュニティへ広がる

2016年 03月 10日

本の巣箱

ブラジル、リオデジャネイロ市コパカバーナ地区サラー・クビシェッキ広場にある、小さな木製の家。まるで鳥の”巣箱”のような見た目だが、中には大量の本が詰め込まれている。入りきらない本は、地面に積まれて置かれている。

近くに住むジウソン・ソアレス氏(70)はこの”巣箱”の常連だ。

「今朝もここに来て本を置いていったんだ。新しい本が来ていないかを見に、今またここに戻って来たよ」(ジウソン・ソアレス氏)

「本の巣(Ninho do Livro)」と名づけられたこのプロジェクト。それぞれが要らなくなった本を巣箱型のボックスに預け、読みたい人が好きな本を自由に読めるようにしている。もちろん参加料金はかからない。

2015年1月から慈善団体「サトラーピア」の主導で開始され、1年間でコパカバーナなどの公園を中心にリオ市内の約10ヶ所に設置されてきた。

創始者のひとりレナータ・タスカ氏は、2014年にフランスを旅行した際に同じような取組みを目にし、自分の住むリオにも取り入れられないだろうかと考えた。

「読書を推進するのと同時に、助け合いの文化を広めたかった。ゴミになるはずだったものが誰かにとっては役に立つものになるということに、多くの人が気づいてもらえれば、と思いました」(レナータ・タスカ氏)

最初の10ヶ所への設置費用は団体が全て負担したが、さらに普及していくためには自治体や企業などの助けが必要だと気づいた。しかし、活動を続けていくうちに、リオ市も各所のメンテナンスのために補助金を出してくれるようになった。週に1回は、団体のメンバーで掃除や本の補充をするため見回りをしている。

さらにインターネット上で募金を呼びかけたところ、2月には計30,000レアルを集めることに成功した。今回集まった資金は、UPP(治安維持部隊)が常駐する貧困コミュニティ10箇所(カンタガーロ、モーホ・ド・ボレウ、モーホ・ダ・プロヴィデンシア、ホシーニャ、シャペウ・マンゲイラ、コンプレクソ・ド・アレマン、シダージ・ジ・デウス、モーホ・ドス・プラゼーレス、タバジャラー、コンプレクソ・ド・マレー)に”本の巣箱”を設置するために利用される。

「各コミュニティで暮らす路上グラフィティ・アーティスト達の手で、巣箱のデザインを個性的に仕上げてほしい」とレナータ氏は語る。

巣箱から”飛び立った”本は1年間で11,000冊以上にのぼる。創始者によれば、貧困コミュニティでの読書率はゼロに近いという。ただし、読書率の低さは貧困コミュニティ内に限られた問題ではない。リオデジャネイロ商業連盟のリサーチによれば、ブラジル人の10人に7人は、2014年に一冊も本を読まなかったとのデータがある。

「公園などに置いてみんなに本を読んでもらうのも目的の一つですが、特に、読書にアクセスしづらい地域での読書の普及に貢献できればと考えています」

市内50ヶ所への設置が当面の目標と語る彼女たちの取組みによって、今後カリオカの意識が変革され、輪が広がっていくことに期待したい。

(文/シケイラ紀子、写真/Divulgação)
写真は2015年7月、セアラー州フォルタレーザ市。リオデジャネイロで始まった”本の巣箱”はブラジルの他都市にも広がっている