ブラジル人サッカー選手は、どこの国を目指すのか

2016年 03月 17日

ラミレス

「ブラジルサッカー選手の82%が月給3万円以下という事実」と同時にブラジルサッカー連盟が、海外で活躍するブラジル人選手数に関するデータを公表した。

同レポートによると、2015年はプロ・アマ含めて海外に出たブラジル人選手は1,215名だった。一方で、ブラジルに来た外国人選手は、プロ・アマ含めて653名。実数で言えば、2対1の割合だが、移籍金を支払った選手の数で計算すると、その割合は大きく変わってくる。

移籍金の授受を伴う選手の数は、ブラジル人選手が99名、外国人選手が15名だった。この場合、ブラジル人選手の方が6.6倍多い計算になる。

サッカー選手の移籍によりブラジルが受け取った金額が679百万レアル(約190億円)であったのに対して、ブラジルが支払った金額は114百万レアル(約31億円)。つまり、ブラジルは有能な選手を海外に輩出することで、約160億円の利益を得ている計算になる。

ブラジルのジャーナリスト、ハファエウ・ヘイス氏のブログによると、2015年の時点で海外で活躍するブラジル人プロ選手の数は2,174名で、111ヵ国で活躍しているという。国別のブラジル人選手数は下記。

順位 国 人数
1位 ポルトガル 412
2位 ドイツ 136
3位 イタリア 127
4位 日本 90
5位 スイス 86
6位 アメリカ 76
7位 スペイン 60
8位 オーストリア 53
9位 マルタ 49
10位 トルコ/中国 46
合計 1,135

一位はダントツのポルトガル。やはり、言葉の壁が無いのが魅力なのだろうか。4位に日本、9位にマルタがランクインしている。

このリストではトルコとの合算せ10位となっている中国の存在感はサッカー選手の契約でもメディアで話題となっている。

2月11日づけの「ヴァロール」誌にも興味深い記事を掲載している。

中国が欧州のサッカー選手を高額の報酬で中国チームに大量に移籍させている昨今の状況は、今後有能な選手が大量に中国に移籍するという「エクソダス」の序章かもしれないと、英アーセナルのアーセン・ベンゲル監督が警鐘を鳴らしているという。

ブラジル人に言わせれば、「中国」は長年の八百長サッカーの習慣で堕落し、代表チームが「屈辱的なほどに弱い(um fracasso humilhante)」国であり、FIFAランキングは、なんとか人口5万人の「フェロー諸島(ノルウェー西海岸とアイスランドの間にある北大西洋の諸島(デンマークの自治領))」の上位にランクしているというもの。

また同記事は、そもそも中国では子供にサッカーをさせる習慣がなく、エリート階層はサッカー観戦よりもゴルフに夢中になっているくらいだったが、一人の男が抱いた夢により、このシナリオが大きく修正される可能性があるという。

その夢とは、中国共産党トップの習近平総書記が抱いた「中国でワールドカップを開催し優勝する」というもの。この夢を実現するために、習総書記は中国共産党員を中心に、子供にサッカーをさせることを奨励。学校のカリキュラムにもサッカーを取り入れ、国内にサッカー場を増やす決定をしたとのこと。サッカー場を確保するために、ゴルフ場をつぶす計画もあるという。

そんな習総書記の夢に不可欠なのが、外国人選手の存在。海外で活躍する一流の選手を中国のナショナルチームに大量に投入し、強制的に国民のレベルを引き上げようというものだ。

中国は既にブラジル人選手25名と契約している。例えば、Jiangsu Suning F.C.は、アレックス・テイシェイラを56百万ドル(約62億円)、MFのラミレスを36百万ドル(約40億円)で契約している。また、中国はサッカー選手に留まらず、ブラジル代表チームの元監督2名(マノ・メネーゼス監督とルイス・フェリッペ・スコラーリ監督)とも契約しています。

アーセン・ベンゲル監督も「中国は欧州リーグを丸ごと購入する財政力を有しており、彼らの食欲がいかほどか知らないが、我々はこの件に関して懸念しなければならない」と語る。

これは習総書記の夢であるから、いつの日か欧州チームの選手を1億ユーロ(約123億円)で引き抜く日が来るかもしれない、と記事は締めくくっている。

(文/唐木真吾、写真/Rafael Ribeiro/CBF)
写真は中国のチームと契約しているラミレス選手

著者紹介

唐木真吾 Shingo Karaki

唐木真吾 Shingo Karaki
1982年長野県生まれ。東京在住。2005年に早稲田大学商学部を卒業後、監査法人に就職。2012年に食品会社に転職し、ブラジルに5年8カ月間駐在。2018年2月に日本へ帰国。ブログ「ブラジル余話(http://tabatashingo.com/top/)」では、日本人の少ないブラジル北東部のさらに内陸部(ペルナンブーコ州ペトロリーナ)から見たブラジルを紹介している。
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