遺伝学者によるブラジル人種論の新展開

2016年 11月 14日

ホライーマ 聖火

「ミナスジェライス連邦大学の我々の調査グループは、DNA 遺伝マーカーを使って、ブラジル人-白人、混血褐色人、黒人-の祖先の遺伝子研究を過去 20 年にわたって行ってきた」

「この研究が示すところでは、白人と自己申告する人たちの圧倒的多数は、父系(註:父から子への Y 染色体)遺伝子はヨーロッパ起源である。一方、母系(註:ミトコンドリア DNA)遺伝子に目を向けると、何とも均等に分配された数値となっているが、33% が先住インディオ、28% がアフリカ、39% がヨーロッパ、を起源としている」

「この数値は全国平均値であり、広大なブラジルでは地域差があることも事実である。この研究データによれば、ブラジルの白人層の形成においては、遺伝子のフローは性的には不均整であった。すなわち、ヨーロッパ系遺伝子は父親経由で、先住インディオ系とアフリカ系の遺伝子の大部分は母親経由でブラジル人に伝わったのだ」

「別の言い方でいけば、ブラジルの白人は、ヨーロッパ系男子とアフリカないしインディオ起源の女性との間の性的結合によって形成されたのである。何世紀にも亘るこの混淆の結果、白人と自己申告しているブラジル人三人のうちの二人が、母方との関係ではアフリカ系ないし先住インディオ系の子孫、となっている。さらには、黒人と自己申告している者の半分以上が、父方のルーツがヨーロッパ系なのである」

ホライーマ州ボアヴィスタ 先住民

この論稿は、ブラジル政府が進めてきている人種差別是正措置の一環である、公務員試験への 20%黒人枠について、その選別試験での黒人判定の非科学性を論じたものだ。

「遺伝学という科学的立場からすると、人種というものは存在しない。(人種が存在するのは、社会的ないし文化的な文脈においてだ)」と考えるペーナ教授にとっては、人種を決定するのは自己申告しかないとなる。

ちなみに、ペーナ教授が、ご自身の遺伝子検査をしたところ、ご先祖が先住インディオであることを“発見”し、「自分が“より根付いた”ブラジル人であることを自覚した」由だ。

ブラジル特報 11月号

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(文/岸和田仁、記事提供/ブラジル特報(日本ブラジル中央協会)、写真/Iano andrade/ME/Brasil2016)
写真は2016年6月19日、ホライーマ州ボアヴィスタ。オリンピックの聖火リレーを受け取った同地域住民の子孫