ブラジルの写真家クリスチアーノ・マスカーロ展、4月7日まで開催

2017年 04月 2日

クリスチアーノ・マスカーロ

駐日ブラジル大使館に新たにオープンしたトミエ・オータケ・スペースで、4月7日までブラジルでブラジルで最も著名な建築写真家のひとりであるクリスチアーノ・マスカーロの写真展が開催されている。

建築学を学んだ後に写真家への道に進んだクリスチアーノ・マスカーロは、「街は、人間の知識の発展の軌跡である」という自身が掲げるテーマのもとに、ブラジルの国中のさまざまな街の写真…建物であったり、人であったり、景色であったり…を撮り続けてきた。今回、展示されている写真もその中の一部だ。

1990年代初頭に取り組んだフォトエッセイ「ブラジルの生活様式と居住様式」は、そんなクリスチアーノ氏にとって、写真における自身のテーマを確立する過程で多くを学んだプロジェクトだったという。

クリスチアーノ・マスカーロ

「アブリウ社の女性誌『クラウジア』が創刊20周年だったかな? 節目の記念を迎えるということで、『ブラジルの生活様式と居住様式』というテーマの大きな特集を組むことになりました。ブラジルのさまざまな土地で、人々と住居の関わりについてレポートするため、約2カ月をかけて飛行機と車で全国を取材しました。ブラジルは大きな国なので、自然環境が大きく異なる土地ごとに、人々の暮らしも異なります。海岸線沿いの都市部ではモダンな建物で暮らす人々がいますが、内陸部に行けば”パウ・ア・ピッケ”と呼ばれる、竹や土壁で作る伝統的な質素な家屋に暮らす人もいます。サンフランシスコ川沿いでは、家の中に川が流れる作りで常に水も浴びられるような暮らしをしている人々もいました」

取材を通して得た最も大きな収穫は、それぞれの暮らしをしている人々、みなにリスペクトの気持ちを抱けるようになったことだという。

「大都市で近代的な生活をしていると、田舎の質素な生活をどこかでかわいそうだと勝手に思っていた自分がありました。どこかで馬鹿にしていたという気持ちがあるように思います。しかし実際に田舎に行くと、人々が自らの手で家を作り、質素でも実に清潔で整然としたその家の中で、敬意をはらうべき生活をしていました。知識では国の中にさまざまな暮らしの違いがあることは知っていましたが、実際に人々の暮らしを見比べてみると、”貧しさ”はむしろ都市に多く存在しているということに気づかされました」

「例えばサンパウロ郊外には、大都市を目指して地方から来た人々が、思い描いていた生活ができずに夢破れて、下水も処理されていない環境の中で暮らさざるを得なくなったような人も少なくありません。一方、北部や北東部では、人間に対して厳しい自然環境の中に置かれながらも、その自然と共存して、人間らしい暮らしを彼ら自身の手によって築き上げていました」

クリスチアーノ・マスカーロ

ブラジルにおける建築や住居の多様性は、自然環境によるものとはまた別に、多様な文化を受け入れてきた歴史の中で産み落とされ続けた多様性もあるという。

「さまざまな形で多様な文化を受け入れてきたこの国には、マリオ・ジ・アンドラージが”食人主義”と呼んだ、異文化を取り込んでどんどん自分の文化にしてしまう貪欲さがあります。これは建築にもいえることです。イタリア人、スペイン人、日本人、アラブ人などブラジルには世界中から移民がやってきてさまざまな文化を持ち込みましたからね」

「ブラジルは世界各国から伝わった建築様式を、ブラジルにあった素材や感性で独自のスタイルに変換して独特の形に生まれ変わらせてきました。バロックの時代であればミナスジェライス州のアレイジャジーニョの建築や彫刻がそのいい例でしょう。ブラジルならではの建築素材を使い、ブラジル流のバロックを作り上げました。モダニズム建築でも、ル・コルビュジエの伝えたスタイルはブラジルでは独特の形で表現されました。ブラジルは歴史の浅い国ですから、ヨーロッパや日本など守るべき伝統のある国との最も大きな違いは、伝統や歴史に対する考え方が大きく異なります。伝統に縛られず自由な発想で建築が発展してきたのだと思います」

「クリスチアーノ・マスカーロ写真展“Brazil: Urban landscapes”」
会場:駐日ブラジル大使館(港区北青山2-11-12)
期間:開催中~4月7日(金)。月曜~金曜日、10時~17時。
入場無料

(写真・文/麻生雅人)