ブラジルのココヤシ農家、政府に生産者保護を訴える

2018年 04月 21日

ブラジル ココナッツウォーター

ブラジル人の日常生活に深く根差したココナッツ。街を歩くとココナッツウォーターや、実を細かく刻んで砂糖で固めたお菓子、コカーダを見かけない日はほぼない。

そんなブラジルのココナッツに異変が起こっている。一大産地、ブラジル北東部を見舞った干ばつで生産高が激減し、市場の需給に大きな影響を与えている。

グローボ系ニュースサイト「G1」が4月11日づけで伝えたところによると、国内産ココナッツの不足を埋めるべく輸入されたアジアからの安価なココナッツに危機感を抱いたココナッツ生産農家が農牧供給省に国内の生産者保護を訴えたという。

保護を訴えたのは40軒の生産者で、ココナッツ生産者が政府に保護を訴えるのはこれが初めてだ。

「私たちはアジアからの輸入ココナッツとの不当な競争にさらされています。輸入ココナッツを使っている加工場もありますが、そこで使われている原材料は必ずしも衛生基準を満たしているとは言えず、収穫までのプロセスで労働者搾取が行われている可能性もあります。乾燥した状態でブラジルに輸入されているものもあります」(ブラジル全国ココナッツ生産者組合副理事、フェルナンド・フロレンシ氏)

同副理事は続ける。

「輸入された乾燥ココナッツはブラジル国内で再び水で戻され、砂糖を加えて飲料として売られています。購入した消費者は自分が飲んでいるものを100%の天然ものと誤認している可能性があります。加工場どうしの競争も激しく、仕入価格を抑えるため、国内産のココナッツの仕入割合を下げつつあるのです」(フェルナンド・フロレンシ氏)

ブラジル全土のココヤシ農家75%は零細農家だ。

2012年、ブラジルの食品メーカー、ドゥココと米国ペプシコは、商品の原材料であるココナッツウォーターの調達先をアジアに切り替えた。ペプシコはブラジル国内のココナッツウォーターのシェア上位を占める紙パック飲料「ケロココ」を製造販売している。

アジアのココヤシはブラジルのものと種が異なり、その実は主にココナッツオイルの生産に使われる。現地でココナッツウォーターはさほど消費されないため取引価格も安い。ブラジルで生産されている種のほうが、中の水分の質が良いといわれる。

「ココナッツの輸入増加が止まりません。私たちは輸入自体を止めてほしいとは思っていませんが、アジアから調達された原材料についても我々がブラジル国内で従っているのと同等の規制を適用してほしいのです。例えば労働者に対する義務や、衛生管理義務などです」(フェルナンド・フロレンシ氏)

ブラジルの生産者はまた、アジアからの原材料に付随して持ち込まれる新たな病原菌に対しても警戒感を持っている。「魔女の箒」と呼ばれる病気がカカオ農園に広がり、生産高が大きく落ち込んだ記憶が農家の間で呼び覚まされているようだ。

国内種苗業大手のテクノココ社は アジア種とブラジル種のココナッツの交配を行っている。同社のディレクター、アントニオ・バルボーザ氏は交配に関する規制等に対して懸念している。

「メキシコ産のアジア種の花粉を輸入し、害虫被害に強い交配種を作りたいのです。関心を持ってくれている協業候補社も何社か出てきていますが、ブラジル国家の官僚主義に阻まれています」(アントニオ・バルボーザ氏)

飲み干すまでの間に手が痺れるほどに重いのが玉にキズだが、ココナッツウォーターファンとしてはブラジルの国民的産物をめぐる攻防からしばらく目が離せない。

(文/原田 侑、写真/Divulgação)