ジカウィルスより怖い!? ブラジルの交通事故死

2016年 02月 19日

サンタカタリーナ交通事故

1月末に出張先の中国のホテルで、国営放送であるCCTVのニュース番組を見ていて驚いた。いきなり、ブラジルの病院の映像が流れ、WHO(世界保健機構)の記者会見などが放映された。

何事かと思って見ていると、ジカ熱に関する報道であった。その日から、毎日のように追加情報がテレビニュースで流された。

日本に帰れば、会う人ごとに、「ブラジルの何とか熱は怖いですね」「まだ刺されていませんか?」などと問いかけられた。これまでは治安や競技場建設が間に合うか、などを聞かれることが多かったのが、ジカウイルスに一変した。しかし、よく話をしてみると、あまり報道内容については覚えていなくて、エボラ熱や、マラリアなどと同じような捉え方をしており、報道の怖さを思い知るとともに、正確な情報を把握することの重要性を感じた。

日本の情報番組で、「地球上でもっとも多くの人間を殺した生き物は?」という問いかけがあった。

答えは「蚊」である。ブラジルへの日本人移民史においても、コーヒー農園などでの過酷な労働がクローズアップされるが、死に至る一番の大敵は蚊であった。

昨年、入植100周年を迎えたサンパウロ州のある植民地では、最初の入植82家族に対して、約80人近くがマラリア禍でこの世を去り、入植後87年が経つアマゾン移民も最初の5年でマラリアにより100人以上が亡くなった。

このように蚊が媒介する伝染病は恐ろしいものだが、医療の進歩も目覚しく、今やブラジルに渡航する際に、アマゾンへ行く場合であっても予防接種は必須ではなくなっている。そんななかで新しく登場したのが、ネッタイシマカが媒介するデングとジカ、そしてチクングニヤウイルスである。

ブラジルでは、15年11月頃から、テレビのニュースや新聞でさかんにジカ熱について報道をするようになった。特に北東部の暑いエリアにおいて多く感染しており、感染した妊婦と生まれてくる乳児の小頭症との関係が取りざたされると同時に、神経系の難病であるギラン・バレー症候群を発病する可能性も指摘されている。

実際に2月5日づけのブラジルの有力紙「グローボ」のサイトによると、リオデジャネイロ州ニテロイ市の病院の入院患者のうち、ジカウイルスに感染した6人すべてに神経系の病気の兆候が見られたそうだ。

保健省の2月2日の発表によると、小頭症と疑われている事例が3670件、そのうち小頭症と確認されたのが404人、さらにそのなかでジカ熱ウイルスが検出されたのが17人であった。

ジカウイルスに感染しても、その8割は自覚症状がなく、発症しても発熱、発しん、関節痛が少しある程度で直接死に至る心配はあまりない。反対に、昨年日本でも騒がれたデング熱は、実は昨年ブラジルでは約160万人罹患し、830人以上が死亡している。サンパウロ州の郊外でも多くの患者が出ており、ジカ熱に比べ、高熱を発し、症状もひどく、死亡率も高いので実はデングのほうが要注意である。

ただ、あまりにウイルスばかりに気をとられていると、もっと大きなリスクを回避できない。

ブラジルは世界的にも交通事故が多い国である。WHOが発表した12年の数値によると、年間の交通事故死が4万7000件と日本の約8倍に上った。

また、リオ市公安局の発表による殺人件数は2010年に1628件起きた。この年の強盗事件が約7万件、窃盗事件は10万件弱である。同年の日本全国の殺人件数は437件。リオ市の人口は、日本全体の20分の1程度にすぎないにもかかわらず、リオ1都市で日本全国の3.7倍の殺人事件が起こったのである。

ブラジルに渡航する際は、ジカ熱に踊らされず、これらを踏まえた、冷静なリスクマネジメント策が求められる。

(文/輿石信男(クォンタム)、記事提供/モーニングスター、写真/Jefferson Santos/Notícias Vale do Itajaí)
写真は2015年11月28日、サンタカタリーナ州コルパーを通る国道280号線で起こった交通事故