ブラジルで新たな全国規模抗議デモの予兆!? ショッピングセンターを揺るがす「ホレジーニョ」とは?

2014年 01月 17日

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2013年12月にサンパウロのショッピングセンターで始まった「ホレジーニョ(ロレジーニョ)」という集団行動が、より幅広い立場の人を巻き込んでムーヴメントとして拡大しつつある。

フェイスブックの呼びかけを通じてショッピングセンターに若者たちが集まる「ホレジーニョ」は、年が明けて2014年に入りサンパウロのいくつかのショッピングセンターを舞台に拡散していたが、1月11日(土)にはサンパウロのショッピング・メトロ・イタケラに6000人の若者が集い、駐車場での集会があったが、施設前で軍警察との衝突があった。

また、ホレジーニョが何回か開催されるうちに騒ぎを嫌うショッピングセンター側が事前に軍警察に周辺警備を依頼したり、入場禁止の張り紙を出すなどの措置を取り、中には、ホレジーニョの予告時間前にショッピングセンターを早じまいして施設をバリケードで固める店も出てきた。

そんなショッピングセンターや裁判所、軍警察などの対応を受け、ホレジーニョ騒動が人種問題、社会的な不公平の問題をはらみはじめている。リオデジャネイロをはじめブラジル各地の10以上に州に飛び火しようとしていることを、1月16日(木)付け「アジェンシア・ブラジル」が伝えている。

もともとホレジーニョには、サンパウロでの路上バイリ・ファンキ集会禁止法案が提出されたことへの抗議の意味もあったとのこと。参加していたのはバイリファンキを好んで聞いている貧困層や黒人層が中心だったそうだが、全国に拡散しようとしているホレジーニョには、学生をはじめ、さまざまな社会階層、人種の人々がかかわり始めているという。

ホレジーニョとはそもそもは、「rolé(ホレー)」という言葉から派生した造語で、ぶらぶらと辺りを散歩する状態を示すスラングだ。MCダナジーニョことダニエウ・ヂ・ソウザによると、バイリファンキ(ヒップホップやファンク、エレクトロニック音楽、ポップスなどが融合したブラジル初のダンスミュージック、またはそれを聞いたり踊ったりする場所。略してファンキともいう)を好む人たちの間では、ファンキ界のラッパーや歌手などのアイドルがショッピングセンターに現われたとき、インターネットを通じて彼らに会いたいファンたちがショッピングセンターに会いに行くことを、ホレジーニョと呼んでいたという。

ファンキのリスナーの多くは黒人層、貧困層が多く、入場料の高い劇場などにはなかなか入れないなど、事実上行動範囲は制限されている面がある。そんな彼らにとって、買い物をするかしないかは別として、誰でも中に入ることが可能なショッピングセンターは、ほぼ唯一、彼らのアイドルと会うことができる公共の場所でもあるという。

「誰でも入れて、誰でも知っている唯一の場所がショッピングセンターなんだ」(ダニエウ・ヂ・ソウザ)

しかし、ファンたちがアイドルに会うにいくムーヴメントに便乗して、盗みを働く者が出てきたことが、ホレジーニョの騒ぎを大きくしたとダニエウは語る。

ショッピングセンター側は、裁判所の許可を得て、ある種の人々の入場を制限するという張り紙を出した。

「やがて暴動がはじまり、私たちの階層の人を入れないという張り紙がショッピングセンターに掲げられるようになり、テレビが騒ぎ始めて、遠方からも破壊行動をしにやってくる人がでてきた。(ホレジーニョでは)悪いことをする人はいないにもかかわらず、泥棒や暴徒と同じように見られてしまっているんだ」(ダニエウ・ヂ・ソウザ)

ブラジルの、主に都市部や郊外などにあるショッピングセンターは、日本で言えばイオンモールのような、映画館やゲームセンター、飲食店も入った大型商業施設。ただし、中に入っているショップはブランド店など高級店が多く、日本で言うと表参道ヒルズに近い。そのためガードマンも常駐して、客の多くは非黒人系の中産階級以上。黒人層は、店や施設で働いている人では見かけるが、客で見かけることはそう多くはない。

日本人観光客を含む、非黒人系の中産階級以上の客にとっては、さほど治安のことを気にせずに買い物をしたり時間を過ごせる場所として認識されている面もある。そんな、ショッピングセンターという場所が舞台となっているホレジーニョ騒動は、発言者の属している社会的階層や立ち位置、思想によって、見方が異なっている。

リオデジャネイロ州立大学コミュニケーション学部のイヴァーナ・ヴェンチス教授も、昨年末にサンパウロに端を発したホレジーニョは、どんどん政治的な意味をはらみつつあると語る。

「集会が直接、政治的な問題を意図していなくても、結果的に政治的な行動になっています。本来の目的はさておき、一人の黒人で貧困層の若者がショッピングセンターに入ろうとしたが、”招かれざる客”として入場することすら拒まれる…このこと自体が、すでに政治的です」(イヴァーナ・ヴェンチス教授)

さらに、さまざまな意見が出ている。

「このケースでは、誰もが持っている”公共の場を自由に行き来する権利”を行使する人の数があまりに増えてしまったことで事が大げさになり、他の者によって”自由に行き来する権利”を阻止する力がでてきてしまった。自分に与えられた正当な権利を乱用したことから生まれた問題です」(サンパウロ法科大学フェルナンド・メネーゼス教授)

「ホレジーニョを行っている人たちは明らかに人種差別を受けています。彼らは公共の場で抗議活動を行う権利も阻害されようとしているからです。確かに、(ショッピングセンターは)公共の場所であると同時に私有地でもあります。しかし、彼ら以外は誰もが自由に行き来できる場所なのも確かです」(ブラジリア大学アレシャンドリ・ベルナルヂーニョ教授)

「ブラジルの社会の中にあるコントラストが浮かび上がった例です。ホレジーニョをみるとき人々は、明らかに階級と人種を意識しています。確かに社会階層の問題もありますが、私はそれよりも、人種問題だと考えます。同一空間にさまざまな文化を持つ人が集うを違和感が生じます。ほとんど白人しかいない空間に、若い黒人が多く現われたことが、ホレジーニョの騒ぎを大きくしていると考えます」(ペルナンブッコ州立大学社会学科ルアナ・ルイス教授)

「他の社会階層の人たちが、(ホレジーニョを行っている)彼らの意見を差別することなく受け止め、検証することが大切だと思います」(リオデジャネイロ州立大学コミュニケーション学部イヴァーナ・ヴェンチス教授)

(写真・文/麻生雅人)
写真はリオデジャネイロ、ショッピング・リオ・スウ。リオデジャネイロ市南部(ゾナ・スウ)にあるショッピングセンターの普段の顧客は非黒人の中産階級以上が多い