ブラジルの食肉産業が先端技術を確立した歴史的背景とは!?ブラジル豚肉生産輸出業協会(ABIPECS)フイ会長に聞く

2014年 03月 9日

RUI VARGAS

幕張メッセで開催された「FOODEX JAPAN 2014」のブラジル・パビリオンで、3月5日(水)、ブラジル政府、サンタカタリーナ州関係の団体による豚肉や鶏肉についてのプレゼンテーションが行われた。このプレゼンテーションでブラジルの養豚産業について語ったAssociacao Brasileira da Industria Produtora e Exportadora de Carne Suina ブラジル豚肉生産輸出業協会(ABIPECS)のRui Eduardo Saldanha Vargas フイ・エドゥアルド・サウダーニャ・ヴァルガス会長に、改めて話を伺った。

ブラジル南部にあるサンタカタリーナ州産豚肉の日本への輸出が始まったのは2103年のことだが、そもそも日本側の輸入が解禁となった大きな理由には、同州産豚肉の厳密な衛生管理が挙げられるという。

「サンタカタリーナ州の食肉が日本に輸出されることになった最も大きな要因は、日本がとっている口蹄疫に対する基準をクリアしているためです。同州は14年間、ワクチンを摂取せずに口蹄疫が発生していません。ワクチン非接種清浄地域になっているからです」

とはいえサンタカタリーナ州がワクチン非接種清浄地域でいられるのは、口蹄疫の予防をはじめ衛生管理に関して、気の遠くなるような努力をし続けてきたからにほかならない。

「サンタカタリーナ州では仔豚が生まれるときから食肉になるまで一貫して記録をとって生産していますし、豚たちが移動するたびに細かく検査が行われます。まず母豚が検疫の対象になっていますが、健康な母豚から生まれ、はじめ母乳で育てられた仔豚たちは、21日間、保育園で育てられます。保育園への移動時に仔豚たちは検疫を受けます。次に、特別なエサが与えられる飼育施設に移送されますが、このとき彼らはまた検疫を受けます。最終的に豚たちは屠殺されますが、そこでも検疫があります。これまでどんなエサを食べ、どんな薬が使われたか、すべて記録されたカードと共に、豚の個体は検査されます。さらに食肉用に解体されたあとは冷凍施設に運ばれますが、ここでもサンプル検査が行われ、移送のコンテナの中でもサンプル検査があります。これらのプロセスをすべてまとめて、私たちは“検疫”と呼んでいます。どこか一カ所ででも引っかかれば、豚はそこで流通しなくなります」

管理の徹底ぶりに、驚かされるばかりだ。しかし、そもそもブラジルは、食肉の検疫や安全性に関してはは早い時期から取り組み、技術を確立してきた国でもある。

「その理由は、ブラジルは食肉に関して世界有数の生産国であると同時に、早くから世界有数の輸出国でもありましたから、動物の健康や安全に関するプログラムをいち早く取り入れて確立してきたのです」

ブラジルは、さまざまな分野で、後に世界各地で注目を集めることになる産業の技術や、問題となるような事例への対策に先んじて取組み、その技術を培い、実践してきた。石油危機が起こった1970年代には燃料用エタノールの生産技術開発を行い実用化して、今ではこの分野での先進国となっている。食肉産業の技術振興の背景にも、何か理由があったのだろうか。

「食肉に関していえば、例えば、肉の中に残留する化学物質に関する研究は1978年に始まっています。ブラジルの食肉産業を発展させた背景には、第二次世界大戦とも関係しています。大戦後、世界が食糧難に陥ったとき、アメリカ合衆国やイギリスなどいくつかの国が食肉の缶詰を作り流通させる計画がありました。ブラジルもその中に選ばれていたので、安全な食肉加工品を生産して流通させる技術に早くから取り組んでいたというわけです」

FoodexSuina

記者会見で流れたブラジルの養豚のプレゼンテーション用映像でも、豚の飼育における安全性や清潔さへの配慮は具体的に紹介されていたが、施設内で、豚たちがストレスなく暮らせるような配慮が施されている様子が印象的だった。

「例えば、豚たちが移動をする際にはスロープを用意しています。大昔、豚たちは移動させられるためにムチで叩かれていました。彼らは後ろに下がることができず、常に前に進もうとします。そして問題に直面すると、止まって動かなくなるので、鞭打たなければならなかったのです。しかしムチ打つこと自体好ましくありませんし、豚に傷がついたり、ストレスを与える要因にもなるでしょう。研究の結果、曲がりくねった道があると止まらず前進することがわかり、曲がりくねったスロープが作られたのです」

食肉のための動物の飼育システムには、疫学などの化学だけでなく、生物学、生態学、環境学などのさまざまな知識や技術が総合的に生かされているという。

「豚が、曲がりくねった道の方が前進しやすいのは、彼らの歴史と関係しているようです。豚の祖先である野生のイノシシは、森の中で木や茂みをよけながら突進していました。豚にもその習慣が残っているようです」

FOODEXrampa

サンタカタリーナ産の養豚に関して、動物福祉の観点からも大事に育てられていることは、記者会見でサンタカタリーナ州食肉及び関連食品産業組合(SINDICARNE)のヒカルド理事も紹介していた。

「動物生物学的な見地からも、生きている間はその動物にとって最も自然な形で生活できるような環境に置いてあげて、苦しむのは最後の死ぬ瞬間だけにしてあげることが大切だと考えられています。最終的には彼らは屠殺されますが、豚は自分たちがやがて殺されるということを知りません。サンタカタリーナ州の養豚でも、生きている間は彼らが快適に生きられる環境で育てています」

ところで、ブラジルというと牛肉大国というイメージを抱いている方も少なくないと思う。国内で豚肉は、どのように消費されているのだろう。

「ブラジル人の1年における1人あたりの大体の消費量は、鶏肉が45kg、牛肉が25kg、豚肉が15kg、魚類が8kgとなっています。国内消費も決して少なくありません。鶏肉の消費が多いのは価格が安いためでしょう。豚肉はリングイッサ・カラブレーザ(ソーセージの一種)によく使いますね。ブラジル人は、グレリャード、アッサード(共にグリル料理)、ミラネーザ(ミラノ風カツ)も大好きです。お酒のおつまみならトヘズモと呼ばれる皮のから揚げも有名です。近年では、ご飯の上にのせて食べる、角煮丼のような食べ方も人気ですよ。カルニ・コン・モーリョ(ソース賭かけ肉)と呼ばれることもあるようですよ」

(写真・文/麻生雅人)
写真上、ブラジル豚肉生産輸出業協会(ABIPECS)のフイ・ヴァルガス会長。写真中、写真下はサンタカタリーナ州食肉及び関連食品産業組合(SINDICARNE)による養豚のプレゼンテーション映像の場面