日系茶畑で蘇るブラジル産紅茶。新ブランド名は「おばあ茶ん」
2015年 04月 10日かつて”紅茶の都”として栄えた(ブラジル)サンパウロ州レジストロだが、紅茶産業は輸出に依存していたため、20年ほど前からのレアル高で国際競争力を失い、衰退の一途をたどった。
5歳から携わるこの紅茶産業を守ろうと、島田梅エリザベッチさん(本名梅子、88、二世)が立ち上がった。荒れ行く茶畑に心を痛めて一念発起し、自宅の一角に「天谷」に次ぐ第二の製茶工場を設立し、なんと昨年11月に新銘柄「おばあ茶ん」を立ち上げた。
「何とかして茶畑を活かしたい」という母の熱意に打たれた子供たちと共に、新たな挑戦が始まった。
大西洋岸林に囲まれたシチオ島田の一角には、見渡す限りの茶畑が広がる。50年前に息子たちと植えた15万株。梅さんは毎朝6時、籠を背負って犬のボブと畑に出かけ、丁寧に選別しながら茶葉を摘む。
「皆、お茶が駄目になるとププーニャやバナナを植えてしまうが、私は茶畑から離れることができない。レジストロのお茶をなくすのは悲しい」。そう紅茶への愛情を吐露する梅さんは、「茶産業が駄目になったのは、売れると質より量になったからだと思う」と語る。だから、品質を誇る商品を出せば、希望があると考える。
機械で摘むと硬い葉や新芽、虫まで混ざってしまうため、手間はかかるが手摘みにこだわり、農薬もほとんど使わない。それを丸ごともんでじっくり乾燥させたのが「おばあ茶ん」。試行錯誤を重ね、昨年11月に完成を見た。
コーヒー文化が主流で、国産紅茶の認知度が低いブラジルにあって、販売を軌道に乗せるのは容易ではない。しかし、天谷茶の開発・販売に携わる茶アドバイザーの今里ディズニーさんらが島田家に加勢し、新銘柄の成功に一縷の望みを託している。
父菅野勝見さんの茶畑は今よりずっと広く、工場もあった。しかしこの地域にかつて40以上あった製茶工場と共に、ここも操業を停止し、この茶畑だけが残った。
2011年、天谷に納めていた輸出用茶葉の出荷がついに途絶えた時、梅さんは「もう駄目だといわれた時、茶畑をアブラッソ(抱擁)して泣きました」と振り返る。
荒れていく茶畑を何とかしたいと思いつめていた矢先、茶愛好家で製茶機械に詳しい技術者マキウチ・トシオさんと偶然出会い、彼が壊れた揉捻機(じゅうねんき、葉を揉んで発酵を促す装置)を蘇らせた。
計約1万レアルを投資し、乾燥機も購入。思い立ってからわずか半年で小工場が完成した。生産能力は月200キロ。梅さんと娘テレジーニャ栄子さん、二人の従業員が紅茶を作り、娘婿のレオ・オウレリーノさんがサンパウロ市で営業を行う。
手間隙かけた紅茶の品質は折り紙つきで、今里さん(53、二世)も「機械摘みには出せない特殊な味わいと香りがある。いつ飲んでも飽きない味」と勧めている。
目下、サンパウロ市アクリマソン区の「ÓTICA ACLIMAÇÃO」(Av. Aclimação, 112、電話=11・3207・4104)で販売中。価格は100グラム15レアル。梅さんの娘・浜崎ベルナデッチさんが日本語でも対応する。
「Infusorina」(www.infusorina.com.br)からオンライン購入も可(100グラム23.9レアル)。販売はないが、シャカラ・サントアントニオ区の喫茶店「Tea Kattle」(住所=Rua Alexandre Dumas, 1049, 電話=11・5523・5523・9615、サイト=www.teakettle.com.br)でも賞味できる。
(文/児島阿佐美、写真・記事提供/ニッケイ新聞)
写真上、お茶歴83年の鑑識眼で、良い茶葉だけを選り分ける梅さん。写真下、壊れていた2台の揉捻機を一つにして再生させた