テメル政権の経済改革。期待と不安の交錯する2017年
2017年 03月 20日2016 年、ルセフ大統領が弾劾裁判によって8月末に罷免され、さらに10月の地方選挙で同大統領の属する労働者党(PT)が壊滅的敗北を喫したことで13年半に亘ったPTの治世に幕が降ろされた。
副大統領から昇格したテメル大統領(ブラジル民主運動党;PMDB)は未曽有の不況下で持続可能な財政の確立と投資環境の改善を最優先課題に掲げて精力的に政策を打ち出しているが、5月に暫定政権として発足してから年末までの半年で6人の閣僚が汚職等の嫌疑で辞任を強いられ、また大統領自らの立場も安泰とは言えないなど政治基盤は極めて不安定である。
第3四半期の実質GDP成長率(前年同期比)は▲ 2.9%と10 四半期連続マイナスを記録、需要項目別にみても総固定資本形成は10 四半期連続、個人消費は7四半期連続、政府支出は6四半期連続でマイナスとなった。
15年第4四半期の▲ 5.8%をピークに以降マイナス幅は徐々に縮小しており、その意味で底打ちが近づいていることを予感させるものの、2016年通年では2015年の▲3.8%に続いて3.5%程度のマイナスになる見通しである(2年連続のマイナス成長は1929-30 年以来)。背景には内需の激しい落ち込みがある。
テメル政権がとくに注目するのは財政の悪化振りである。
この20 年、公的支出の伸びはコンスタントに経済成長率を上回っており、14年には基礎的収支がついに赤字(GDP 比0.6%)に転じ、16年は2.5%に拡大する見込み。総合収支もここ数年赤字が急拡大、15年にはGDP 比10.4%に達し、16年も9%近い赤字が見込まれる。その結果、公的債務/GDP 比も上昇に歯止めがかからず、16年には70%に達した模様。
失業率も15年から急上昇し、16年末には12%(1,200 万人強)に達した。
唯一の明るい材料はインフレ率が16年1月(10.7%)をピークにその後、大方の予想を超える低下を示し、16年は6.3%と中銀のインフレターゲットの許容範囲(4.5%± 2.0%)に収まったことである。
中銀の政策金利も15年7月から1 年余に亘って14.25%で据え置かれてきたが、インフレの予想外の沈静化を受けて10月、11月と利下げのサイクルに入った(次ページへつづく)。
(文/岸本憲明、記事提供/日本ブラジル中央協会、写真/Beto Barata/PR)
3月17日(金)、サンパウロ。イノヴェーションの商業利用化推進リーダー委員会(MEI)に出席したテメル大統領(中央)