ブラジル映画「彼の見つめる先に」、一般公開はじまる

2018年 03月 11日

彼の見つめる先に

2015年に第87回アカデミー賞外国映画賞に出品されたダニエウ(ダニエル)・ヒベイロ監督の長編デビュー作「彼の見つめる先に」が、3月10日(土)より一般公開される。

同映画は日本では2015年にSKIPシティ国際Dシネマ映画祭とブラジル映画祭で上映されているが、劇場での一般公開は今回が初めてとなる。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭では脚本賞を受賞している。

映画の公開に先駆けてダニエウ・ヒベイロ監督が来日して、前月、駐日ブラジル大使館でトークショーを行った。

ダニエウ・ヒベイロ

ーー盲目の青年レオナルドは、盲人用タイプライターで授業を受けていることなどをクラスメイトからいつもからかわれているが、幼馴染でレオナルドにほんのり心を寄せている同級生ジョヴァンナは、登下校時にもレオナルドに付き添い、いつも一緒にいる。

ある日、レオナルドとジョヴァンナのクラスに、ガブリエウという青年が転校してくる。

何の偏見も持たずにレオナルドと接するガブリエウは、男の子同志ということもありレオナルドをいろいろな場所に連れ出し、自転車乗りなど、これまで体験したことのないさまざまな遊びを教えてくれる存在になっていく。

両親の干渉にうんざりしているレオナルド、まぶしい好青年ガブリエウ、ガブリエウにちょっとだけ嫉妬するジョヴァンナ。夏のキャンプで起こったひとつの事件をきっかけに、3人の気持ちはすれ違いながらも交錯していく。

「彼の見つめる先に」は、そんな主人公たちの揺れ動く気持ちをベル・アンド・セバスチャンの音楽に乗せてみずみずしく描いた青春映画だ。アイディアの発端は、ダニエウ監督が2008年に制作した短編映画だったという。

大学での研究テーマが、ブラジル映画におけるホモセクシャルの描かれ方だったというダニエウ・ヒベイロ監督は、2008年に研究テーマを題材にした短編映画を製作した。

ダニエウ・ヒベイロ

「20歳前後の若いゲイのカップルを主人公にした物語で、カップルのうちひとりの父親が亡くなったことから、彼らは10歳の若い弟の面倒を見ることになる、という物語です。ただしセクシャリティはこの映画の中心的なテーマではありませんでした。そして、次の映画をどのようなテーマにしようか考えていた時に、人間にとってセクシャリティはどこから来るものなのか、我々はどういった相手に惹かれるのかということを考えるようになりました」

友人たちに、初めて誰かに惹かれたときの記憶を聞き取り調査をしたダニエウ監督は、人が初めて他人に惹かれる時の想いを映画で描こうと考えたという。

「聞き取り調査では、はじめて他人に惹かれた要因として外見によるものという回答が多くありました。だとすれば盲目の人はどう言う過程で人に惹かれるのかと考え、この映画の主人公を盲目の青年という設定にしました。さらには盲目の人は、男性、女性といった性別の違う存在を見たことがないのにどうやって自身のセクシャリティを定義するのだろうかと考え、さらに彼をゲイであるという設定にしました。ですからこの映画の主人公はゲイではありますが、そのことは物語の中心となるテーマではありません」

この映画で描かれているのはあくまで、人が初めて他人に惹かれる時の感覚だ。だからゲイであろうがヘテロであろうが、我々観客はレオナルドやジョヴァンナに自分を重ね合わせて、ちょっと甘酸っぱい気持ちを思い出させられる。

「彼の見つめる先に」は3月10日(土)より新宿シネマカリテほか、全国の劇場で順次公開。

 

 

(写真中・文/麻生雅人、映画写真提供/デジタルSKIPステーション)