ミシェウ・テメル暫定政権はブラジルをどう変えるのか

2016年 07月 10日

ミシェウ・テメル大統領代行

(1) 経済への国家介入を減らし民間投資を再活性化すること

ペトロブラスも開発銀行(BNDES)も、ダウンサイジングと役割の再定義等、大きなリストラを断行する。

サンパウロのコンサルタント会社の試算によれば、2015年のGDP成長率▲3.8%のうち、2%ポイントはペトロブラスとそのサプライヤーのスキャンダル効果。ブラジル経済における同社のウェイトがいかに大きいかを示すもので、改革の規模・方向は民間参入の行方とマクロ経済に多大な影響を及ぼす。

大きな財政負担の一因となっているとともに民間金融をクラウドアウトしているBNDESも対象だ。

ただし、暫定政権の経済政策で重要な役割を期待される民間セクター側も、信用収縮が進むなかで債務負担から破産申請が急増、多くの企業が資産売却に奔走中という体力的な問題を抱えている点、留意を要する。

(2) 財政健全化・政府債務削減への道筋をつけること

伝統的に「大きな政府」のDNAを持つ国であるが、ルセフ政権5年間で拡張的政策は加速し、財政赤字はGDP比10%まで膨張した。ブラジルの政府支出の8-9割は義務的支出、裁量的支出は1-2割である。従来の財政調整は裁量的支出をどれだけ削るかに留まっていたが、新政権は義務的支出の改革に取り組もうとしている。

すなわち、歳出の伸びを前年インフレ率以下に抑え(実質伸び率をゼロ%以下にする)、社会保障制度、とくに年金を根本的に見直すことを最優先課題に挙げている(ラ米平均と比べても低い年金受給開始年齢の引き上げ、支給年金の最低賃金スライドの見直し等々)。これらの改革は上下両院で 3/5 の賛成を要する憲法改正を伴う。

88年憲法が国民の経済的諸権利を事細かく盛り込んだことが後々、財政の硬直化に繋がったことを踏まえ、パッチワークのような一回限りの支出削減ではなく、PT政権では望みえなかったこれら「聖域」に踏み込み、永続的に支出の仕組みを変更することを目指す。

(3) グローバルなサプライチェーンにブラジルを組み込んでいくこと

外国との通商戦略は開発商工省ではなく、外務省が担う。セーハ外相はイデオロギーに重きをおいた PT政権時代の第三世界外交から経済的国益・実利を軸とした外交への転換を宣言。非伝統的輸出拡大に向けた野心的な施策を練る。さらにメルコスル加盟国が個別に域外国と FTA 交渉を行えるようルールの弾力化を目指すとしている。

さて、新しい経済の方向は実現可能だろうか(次ページへつづく)。

(文/岸本憲明、記事提供/ブラジル特報(日本ブラジル中央協会)、写真/Beto Barata/PR)
写真は6月1日、ブラジリア。ブラジル国立経済社会開発銀行(BNDES)のマリア・シウヴィア・バストス・マルキス新頭取などの就任式に出席したミシェウ・テメル大統領代行