米国とイスラエルによるイランへの攻撃で、外交的ジレンマに直面するブラジル
2026年 03月 1日

ブラジルは、2月28日(土)に起きた米国とイスラエルによるイランへの攻撃に対し、慎重な姿勢を取る必要があるとみられている。背景には、ブラジル政府が米国と関税交渉を進める一方で、イランが「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国グループ BRICS の一員としてブラジルの重要なパートナーであるという事情がある。
こうした見方は、アジェンシア・ブラジルが取材した国際関係の専門家たちによるものだ。ブラジル政府は同日朝、攻撃を非難し、平和に向けた道として交渉の重要性を強調する声明を発表した。
ブラジル外務省が公表した声明では、「交渉こそが、この地域においてブラジルが伝統的に支持してきた立場である」 と明記されている。
さらに声明は、「ブラジルはすべての当事者に対し、国際法を尊重し、最大限の自制をもって行動するよう求める。敵対行為の拡大を避け、民間人および民間インフラの保護を確保することが不可欠である」
と締めくくっている。
イランの核開発計画をめぐる協議が続くなか、米国はイラン領内の標的に対して軍事攻撃を実施した。イスラエルも同様に攻撃を行った。
これに対しイランは、米軍基地を抱える周辺国に向けてミサイルを発射し報復した。中東の同国は、核技術の開発について「平和目的である」と主張している。
サンパウロ大学(USP)国際関係研究所のフェリシアーノ・ジ・サー・ギマランイス教授は、ブラジル外務省は米国とイランの間で「中間的な立場」を見いだす必要があると指摘する。
教授は次のように分析する。
「イランはBRICSの正式メンバーとなったため、ブラジルはイランに公然と反対することも、米国に公然と反対することも難しい状況に置かれている。ブラジルは現在、米国との通商交渉も抱えているためだ」
ルイス・イナーシオ・ルーラ・ダ・シウヴァ大統領は、3月末に米国でトランプ大統領と会談する予定だ。
フェリシアーノ教授が言及する「交渉」とは、トランプ政権が昨年8月に導入した輸入関税の引き上げを指す。ブラジル産品の中には最大50%の関税を課されたものもあった。
米国政府は、輸入品への課税強化について、国内産業保護のためと説明している。関税が上がれば、米国企業は海外から輸入するよりも国内生産を選ぶようになるという理屈だ。
その後、ブラジルと米国は関税の見直しに向けた協議を続け、一部の品目は課税対象から外された。
しかし2月20日、米国連邦最高裁がトランプ政権の決定を覆す判断を下し、これに反発したトランプ大統領は複数国に対し10%の追加関税を課す措置を発表した。
リオデジャネイロ州立大学(Uerj)の国際関係学部ウィリアンス・ゴンサウヴェス名誉教授は、ブラジルが慎重姿勢を取らざるを得ない理由として、BRICS創設国であることを挙げる。
BRICSは現在、11の加盟国と10のパートナー国を抱える「グローバル・サウス」の枠組みで、ロシアと中国はイランの主要な同盟国であり、いずれも2006年のBRICS創設メンバーだ。イランは2024年に正式加盟している。
ゴンサウヴェス教授は次のように述べる。
「ブラジルはロシア、中国と強固な関係を持ち、イランとも一定の関係を維持している。これらの国々はBRICSという“同じ船”に乗り、少なくとも理論上は国際秩序の変革を目指している」(ゴンサウヴェス教授)
ゴンサウヴェス教授は、ブラジルが慎重な姿勢を取っている背景には、トランプ政権がベネズエラで行った措置も影響していると指摘する。同教授は、1月3日に起きたニコラス・マドゥロ大統領の拘束を念頭に、
「トランプ政権は南米の隣国で、国家元首を事実上連行した」と述べ、地域の緊張を高める行動が続いていると強調する。
そのうえで、「ブラジルは挑発や強い反応と受け取られる行動を避け、極めて慎重な立場を維持してきた」
と説明する。
ゴンサウヴェス教授は、今後の展開次第ではブラジルがより明確な立場を示す必要に迫られる可能性があるとみる。特に、米国がイランの政権交代を目指す姿勢を公言している点を挙げる。
教授は次のように述べる。
「ブラジルは一貫して民族自決と内政不干渉の原則を支持してきた。国民が選んだ政治体制を変える目的で他国に介入する政府を、今になって支持することはできない」(ゴンサウヴェス教授)
ジェトゥーリオ・ヴァルガス財団(FGV)のレオナルド・パス・ネヴィス研究員は、イラン情勢の緊迫化がブラジル経済に与える影響として、まず原油価格の上昇を挙げる。
「原油価格が上がればインフレにつながる。石油は多くの産業の基盤にあるため、さまざまな分野に波及する」と説明する。
研究員はさらに、ブラジルとイランの貿易関係にも影響が及ぶ可能性を指摘する。
「イランはブラジル産品の重要な輸入国で、特に大豆、トウモロコシ、そして一部のタンパク質製品を購入している」と述べる。
ブラジル開発・産業・通商サービス省によると、2025年のブラジルとイランの貿易額は30億米ドル(約150億レアル)に達した。ブラジルの輸出は29億ドル、ブラジルの輸入は8,500万ドルで、ブラジル側の大幅な黒字となっている。
イランはブラジルの輸出先として31位に位置し、主な輸出品は未加工トウモロコシ(輸出額の 67.9%)、 大豆(19.3%)だ。
ネヴィス研究員は、紛争がさらに激化した場合の懸念として、次の点を挙げる。
「もし紛争が大きく拡大し、イラン周辺が米海軍によって封鎖されるような事態になれば、ブラジルからの輸出は大きな問題に直面する。重要な買い手を失い、国内の一部産業に影響が及ぶおそれがある」(ネヴィス研究員)
(記事提供/Agência Brasil、構成/麻生雅人)




