ボウソナーロ前大統領の家宅捜索で、トランプ政権との関与を示す音声データ発見される
2025年 08月 21日
ブラジルの連邦警察(PF)は、ジャイール・ボウソナーロ前大統領の携帯電話から音声メッセージを発見した。その中で同氏は、アメリカ合衆国がブラジル製品に課している関税の撤廃交渉を、クーデター計画で有罪判決を受けた者たちへの恩赦の承認と結びつけ語っていた。
この録音は、先月連邦警察が実施した家宅捜索と押収によって発見された。
ボウソナーロ前大統領は、支持者の一人であるシラス・マラファイア牧師との会話の中で、「恩赦の採決から始めなければ、交渉は成立しない」と語っていた。
「マラファイア、私が今最も力を入れているのは、恩赦の採決から始めなければ関税交渉は成立しないという点について、的確な人々と話すことだ。政府関係者の誰かしらが米国や大使館に行き、なんらかの働きかけをしても無駄なことだ。何もうまくいかない。私としては、そういう方針だ」とボウソナーロ氏は語った。
また、会話の中でボウソナーロ前大統領は、アメリカ合衆国による関税爆弾に関して、自身が公に発言することを避けたい意向も示していた。
「君が望むように私自身が表に出るわけにはいかない。そんなことをしても何の解決にもならない。私が“男らしく”振る舞っても、意味はない。私は自分のルートを持っている。(表立っては)誰とも話していない。恩赦が決まれば、すべてが解決する。決まらなければ、それで終わりだ」と述べていた。
その後、ジャイール・ボウソナーロ前大統領とその息子エドゥアルド・ボルソナロ氏は、連邦警察(PF)によって「訴訟過程における威圧行為」および「民主的法秩序の破壊を企図した行為」の容疑で起訴された。
この決定は、連邦警察がエドゥアルド・ボウソナーロ氏の行動に関する捜査を終えた後に下された。エドゥアルド氏は、米国のドナルド・トランプ大統領政権と連携し、ブラジル政府および最高裁判所の判事らに対する報復措置を促進しようとしていた。
連邦警察(PF)は、エドゥアルド・ボウソナーロ氏が米国のドナルド・トランプ政権と連携し、ブラジル政府および連邦最高裁判所(STF)の判事らに対する報復措置を促進したとされる行為についての捜査を完了した。その結果を受けて、今回の決定が下された。
<米国による対ブラジル制裁措置>
米国政府はここ数か月間、ブラジルおよびその当局者に対して一連の制裁措置を発表している。主な内容は以下の通り:
- ブラジル製品の輸入に対する50%の関税(いわゆる関税爆弾)
- ブラジルの即時決済システム「Pix」に対する商業調査
- 連邦最高裁判所のアレシャンドリ・ジ・モラエス判事に対する「マグニツキー法」に基づく金融制裁
これらの措置は、外交的緊張を一層高める結果となっている。
<トランプ政権の主張>
ドナルド・トランプ大統領およびその政権関係者は、ジャイール・ボウソナーロ前大統領が「魔女狩り」の標的にされていると主張している。
また、モラエス判事については、米国のSNS企業に対する検閲を行い言論の自由を侵害していると非難している。
このような主張は、米国の外交政策とブラジルの司法制度との間に深刻な対立を生じさせており、制度的な正統性と主権の問題にまで波及している。
<これまでの経緯>
2025年5月、連邦検察庁(PGR)のパウロ・ゴネット長官は、ジャイール・ボウソナーロ前大統領およびその息子エドゥアルド・ボウソナーロ議員に対する捜査開始を最高裁判所(STF)に要請した。
これは、エドゥアルド議員が米国政府に対し、連邦最高裁のアレシャンドリ・ジ・モラエス判事への制裁措置を促すよう働きかけた疑いを調査するためである。モラエス判事は、クーデター計画関連の捜査およびフェイクニュースに関する捜査の指揮を執っていることから、本件の担当判事に選任された。
エドゥアルド・ボウソナーロ議員は、2025年3月に「政治的迫害」を理由に掲げ、122日間の議員職の休職を申請し、米国に居住を移した。これを受けて、ウーゴ・モッタ下院議長(共和党)は、2025年8月16日(金)に、労働者党(PT)および社会主義自由党(PSOL)から提出された申し立てに基づき、議員資格の剥奪を求める正式な請求を下院倫理委員会に送付した。
< ボウソナーロ前大統領による資金送金疑惑>
この一連の捜査の中で、ジャイール・ボウソナーロ前大統領は、息子エドゥアルド氏の米国滞在を支援するために、Pix(即時送金システム)を通じて資金を送金した疑いが持たれている。送金は、エドゥアルド氏がブラジル司法に圧力をかける目的で米国政府に制裁を働きかけていた期間に行われたとされており、資金の出所と目的が捜査対象となっている。
連邦最高裁判所(STF)のアレシャンドリ・ジ・モラエス判事は、2025年8月20日(水)、シラス・マラファイア牧師に対する家宅捜索および押収命令を発令した。マラファイア牧師は、リオデジャネイロのガレオン国際空港にて、国外からの帰国時に連邦警察によって携帯電話を押収された。
判決文の中で判事は、連邦検察庁(PGR)による、同牧師は、前大統領とその息子によって行われた「脅迫行為」の“指導者かつ補助者”として行動していた可能性があるという報告に言及している。
<資金移動と捜査>
連邦警察(PF)は、ジャイール・ボウソナーロ前大統領の起訴状において、同氏がミシェリ・ボウソナーロ元ファーストレディーに対し、200万レアルを送金したことを指摘した。この送金は、息子である連邦下院議員エドゥアルド・ボウソナーロの、米国による対ブラジル制裁を支持する活動に関する捜査において前大統領が証言を行う前日に行われた。
連邦警察によると、ボウソナーロ前大統領はこの送金について、証言時に申告していなかった。一方で、同氏は以前から、エドゥアルドの米国滞在費用として別途に200万レアルを送金したことは公に認めていた。
連邦警察の捜査報告では、これらの送金は、司法当局による資産凍結などの措置を回避し、国外で活動する息子の政治的行動を資金面で支援する意図があったとされている。
<ミレイ大統領への亡命要請草案>
さらに連邦警察は、ボウソナーロ前大統領の携帯電話から、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領宛ての亡命要請文書の草案を発見したと発表した。
この文書は33ページに及び、署名も日付もない編集可能なファイルであり、2024年2月10日に保存されたものとされている。これは、ボウソナーロ氏が(連邦警察による)「真実改名作戦」によって起訴された直後の時期にあたる。
文書の冒頭でボウソナロ前大統領は「政治的迫害を受けている」と主張しており、連邦警察はこの草案が司法手続きの回避を目的とした国外逃亡計画の一環であるとみている。さらに、文書の作成者として、フラヴィオ・ボウソナーロ上院議員の妻フェルナンダ・ボウソナーロの名前が記録されていたことも報告されている。
現在アジェンシア・ブラジルは、ボウソナーロ氏の弁護団との連絡を試みている。弁護側からの声明や反論の機会は保障されている。
(記事提供/Agência Brasil、構成/麻生雅人)