世界10大美術品盗難事件のひとつ、リオのシャッカラ・ド・セウ美術館盗難事件が時効に

2026年 02月 22日

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2006年2月24日、リオデジャネイロのシャッカラ・ド・セウ美術館から盗み出された作品の一つ、サルバドール・ダリ作「2つのバルコニー越しに海の音を聞く、不健康な顔色の男」(1929年)(画像提供/CBMD)

カーニバル期間真っ只だった2006年2月24日。リオデジャネイロ市サンタテレーザ地区の曲がりくねった坂道には、マルシーニャ(行進の音楽)や伝統的なサンバの音が響き渡っていた。

その喧騒の中、数人の男たちがクロード・モネ、サルバドール・ダリ、パブロ・ピカソ、アンリ・マティスの絵画を腕に抱えて運び出していた。

この日はブロッコ(カーニバルのパフォーマンス団体)「カルメリタス」のパレードが行われていたが、そこではいつものカーニバルの光景とは異なることが起きていた。FBI(米国の捜査機関)によると、無数の踊る人々に紛れ、ブラジル史上最大級、そして世界でも10大美術品盗難事件の一つとされる犯行が進行していた。

「私はその日に現場にいました。警察がブロッコを通り抜けようとしていたんですが、僕らが缶などを投げたりして通れなかったんです。誰も何が起きているのか分かっていませんでした。カルメリタスの内部で何か盗難か別の騒ぎでもあったのだろうとしか思っていませんでした」と、プロデューサーのダニエウ・フリアチ氏は振り返る。

犯行グループはシャッカラ・ド・セウ美術館の塀を乗り越え、5点の作品を抱えたまま地区の路地へ姿を消した。これらの作品の価値は当時で1,000万ドル以上、現在の換算で5,200万レアル(約15億5672万円)に相当する。作品も犯人も、いまだ一度も発見されていない。

20年が経過したことで、この事件は今週正式に時効を迎え、盗難に関与した者たちはもはや刑事責任を問われることはない。

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2006年2月24日、リオデジャネイロのシャッカラ・ド・セウ美術館から盗み出された作品の一つ、クロード・モネ作「海景」(画像提供/CBMD)

シャッカラ・ド・セウ美術館は1972年に設立された。同館の建物は、もともと実業家でコレクターのハイムンド・オトニ・ジ・カストロ・マヤの邸宅で、彼が生涯をかけて収集した美術品コレクションを公開するために、美術館として転用された。1983年以降、同館は文化省の管轄下に置かれている。

2006年に盗まれた5点の作品は、いずれも館内でも特に価値の高いものだった。

1点目はクロード・モネによる油彩画「Marine(海景)」。パステル調の色彩で、人気のない山並みの海岸線が描かれていた。

2点目はアンリ・マティスの油彩画「Le Jardin du Luxembourg(ルクセンブルグ庭園)」。色彩豊かな木々が立ち並び、黄味がかった樹冠の高木と、その間を通る土や砂の小道が描かれていた。中央には台座が配置されている。

3点目はパブロ・ピカソの油彩画「La Danse(ダンス)」。大きな木々が生い茂る屋外で、4人の子どもが、大人が吹くトランペットの音に合わせて踊る姿が描かれていた。

4点目はサルバドール・ダリが「Homme d’une Complexion Malsaine Écoutant le Bruit de la Mer sur les Deux Balcons(2つのバルコニー越しに海の音を聞く、不健康な顔色の男)」と名付けた油彩画。並行して建つ2棟の建物が描かれ、それぞれの窓から1人ずつ男性が外を見つめていた。

5点目はピカソによる版画集「Toros(闘牛)」。15枚の挿絵が単独のシートとして収められていた。

公共財としての損失

視覚芸術の専門家で、連邦税務局の美術品鑑定にも携わるエウデル・オリヴェイラ氏は、今回の盗難は美術館だけでなく社会全体にとって文化的損失だったと指摘する。

「一般公開されることのない個人コレクションは他にもあります。しかし、これらの作品は誰もが鑑賞し、研究できる状態にあった。教育や学術研究の可能性が無数に広がっていたのです」(エウデル・オリヴェイラ氏)

「強調すべきなのは、これらの絵画が唯一無二の存在だったということです。同じものは二度と手に入りません。あのマティス、ピカソ、ダリ、モネを誰も見ることができなくなった。盗まれたのは国の財産そのものです」(エウデル・オリヴェイラ氏)

エウデル・オリヴェイラ氏は、シャッカラ・ド・セウ事件のような事例は、ブラジルが構造的な改革を必要としていることを示していると強調する。

「文化財をより重視する公共政策が必要です。盗難の背景には、しばしば予算不足による維持管理や警備の欠如があります。また、文化財犯罪に専従する警察組織への投資も不可欠ですが、残念ながら現時点では存在していません」(エウデル・オリヴェイラ氏)

ジャーナリストのクリスチーナ・タルダギーラ氏も、当局が犯罪の優先順位付けを見直す必要があると指摘する。彼女によれば、警察や政治家は美術品盗難を軽視しがちで、その理由として「殺人事件のような直接的な暴力を伴わないこと」「芸術をぜいたく品とみなす傾向」「被害者が“エリート”と見なされること」を挙げている。

「公共的な文化価値に加えて、美術品盗難は他の犯罪を助長することも多いのです。作品は交換手段として使われることがあります。ピカソの絵画がライフルと交換されることもあれば、モネが一定量のコカインと取引されることもある。盗まれた作品が堂々と市場で売買されることは通常あり得ません」(クリスチーナ・タルダギーラ氏)

(記事提供/Agência Brasil、構成/麻生雅人)