好調? 不調? わかりにくいブラジルの建設・建材業界を裏から見ると・・・

2013年 12月 17日

サンパウロの建設ラッシュ

経済の減速報道が定番になったブラジルではあるが、相変わらず街の至る所では建設ラッシュである。大手ゼネコンはワールドカップやオリンピックの準備で忙しく、リオでは地下鉄工事などが急ピッチに進められている。サンパウロのビジネスの中心で日本企業が多くオフィスを置くパウリスタ大通り周辺でも、いくつもの大型ビルが建設中であり、かつ地元の不動産会社に聞くと、すでにテナントはすべて契約済みとのこと。この辺りの賃貸物件は高くて、新しい、きれいな物件から埋まっていってしまう。

しかし、サンパウロ州建設業組合によると、今年の受注額は前年度比でダウンしているらしい。統計だけを見ると、この事実で「ブラジル経済が減速」という報道になるのだろうが、これには裏がある。

ブラジル政府は、いわゆる昔の日本の公団住宅のような低所得層向けに政府系銀行が中心になって好条件の住宅ローンを提供し、家を持てるようにする「ミニャ・カーザ・ミニャ・ビータ(私の家・私の人生)」政策を2009年から進めているが、昨年は市長、市議会選挙があったために、なんと昨年一年で過去3年分に相当する投資がなされたようだ。それにより昨年の建設業界の受注額は、大幅に伸びたらしい。その余波で、今年は建設材料が大幅に伸びている。今年9月時点の数字であるが、ブラジル建材工業会の発表によると、前年同月比9.3%アップ、12か月累計で3.8%増となっている。

その勢いを駆って、全国建材販売業者会も2014年の建材小売りの売上高は13年比で7.2%拡大すると強気の数字を発表している。来年はワールドカップだけではなく、大統領選・国会議員選挙などもあり、昨年よりさらに大きな投資が見込めると踏んでいるようだ。

翻って、中間層以上にとって住宅は、政策金利がついに10%になり、住宅ローン金利も上がっているので、本来は買いにくくなっているはずである。ところが中間層以上、特に富裕層を中心に、マンションの購買意欲はまだまだ旺盛である。これも、政策金利が高くなることは、裏返せば資産家にとっては、大きな利息が手に入るということである。定期預金に10億円預けられれば、1年後に1億円の金利が受け取れるわけなので、億ションがほぼ投資ゼロで買えることになる。もちろん、各種税金があるので、そんな単純な話ではないが、おいしい話であることには違いない。さて、来年の建設業界をどう読むべきだろうか?

(写真・文/輿石信男)

著者紹介

輿石信男 Nobuo Koshiishi

輿石信男 Nobuo Koshiishi
株式会社クォンタム代表。株式会社クォンタムは91年より20年以上、日本とブラジルに関するマーケティングおよびビジネスコンサルティングを手掛ける。市場調査、市場視察のプランニング、フィージビリティスタディ、進出戦略・事業計画の策定から、現地代理店開拓、会社設立、販促活動、工場用地選定、工場建設・立ち上げ支援まで、現地に密着したコンサルテーションには定評がある。11年からはJTB法人東京と組んでブラジルビジネス情報センター(BRABIC)を立ち上げ、ブラジルに関する正確な情報提供とよりきめ細かい進出支援を行なっている。
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