ブラジルでは冷えた牛乳はほとんど流通していない!?

2016年 12月 7日

ブラジル 常温牛乳

日本のスーパーマーケットでは、牛乳はチルドコーナーに置かれているのが一般的ですが、ブラジルで牛乳を買おうと思ってチルドコーナーを探しても、あるのはヨーグルトのみ。冷えた牛乳は、どこにも見当たりません。

諦めて店内をうろうろしていると、牛乳らしきものを発見。ところがどの商品も常温保存されているうえに、品質保持期限を見ると、半年ほど先の日付が書いてあります。ちょっと気味が悪くて手が伸びませんでした。

ところが後になって、この商品が「ロングライフ牛乳」と呼ばれる製品であり、ブラジルの家庭で消費される牛乳のおよそ9割を占める商品であるという事が分かりました。

冷蔵庫で冷やしてから飲んでみたのですが、日本で飲んでいた牛乳と味に大きな違いは感じませんでした。

常温で6カ月も保存できるということは、この白い液体の中にはさまざまな保存料が入れられていて、健康を害するのではないかと当初は考えてしまいました。しかし、調べたところによると、ロングライフ牛乳は「殺菌工程」が日本で一般的に飲まれている牛乳と異なるだけで、むしろ、保存料は添加していないということが分かりました。

ロングライフ牛乳(Leite Longa Vida)は、超高温殺菌=UHT(temperatura ultra-alta)と呼ばれる製法で製造された商品です。ロングライフ牛乳の製造過程において、牛乳は145 ºCまで過熱された鉄板の上を2秒通過します。たった2秒!? と思ってしまいますが、牛乳に含まれるバクテリアを全て殺菌するには、十分な温度、時間なのだそうです。

また、紙パックにはアルミ箔を貼り合せたものを使用して、光と空気から遮断、無菌状態で充填することで、ロングライフ牛乳は常温で4~6カ月もの期間保存することが可能になるそうです。

保存料などの添加物は使用しておらず無菌状態にしているだけなので、当然ながら開封後は冷蔵庫に入れて、数日中に飲みきってしまわなければなりません。ただし添加物の有無は商品によって異なるようですので、購入時にご確認を。

なお、栄養価は普通の牛乳と変わらないようです。

ブラジル・ロングライフ牛乳協会の情報によると、2008年時点でブラジル人家庭におけるロングライフ牛乳普及率は87%となっています。また、ロングライフ牛乳以外の13%のシェアは、農家が自分の乳牛から採った牛乳を家で加熱して飲む場合や、粉ミルクなどのシェアを指しているのではないかと思います。

同協会の情報によると、ロングライフ牛乳がブラジルにやってきたのは、ヨーロッパでその技術が発明されてから10年後の1972年のこと。はじめはリオデジャネイロで導入されましたが、1991年までは市場シェアは低いままでした。その理由は、牛乳生産量自体が少なかったこと、製造設備が整備されていなかったことなどが原因だったようです。

1991年以降、徐々にロングライフ牛乳の価値が市場で認められるようになってきました。保存が容易であること、成分調整をした様々な種類の牛乳が誕生したことなどがきっかけとなったそうです。

1991年時点ではロングライフ牛乳の市場シェアは4.4%に過ぎなかったのですが、たった17年の間にシェアを大きく伸ばし、2008年には87%のシェアを誇るほどに成長しました。ブラジル以外でも、ヨーロッパなどの多くの国でロングライフ牛乳のシェアは70~90%を占めています。

(写真・文/唐木真吾)
写真はバイーア州の内陸部で製造されているオシャレな牛乳「レイチッシモ(めっちゃ牛乳)」

著者紹介

唐木真吾 Shingo Karaki

唐木真吾 Shingo Karaki
1982年長野県生まれ。東京在住。2005年に早稲田大学商学部を卒業後、監査法人に就職。2012年に食品会社に転職し、ブラジルに5年8カ月間駐在。2018年2月に日本へ帰国。ブログ「ブラジル余話(http://tabatashingo.com/top/)」では、日本人の少ないブラジル北東部のさらに内陸部(ペルナンブーコ州ペトロリーナ)から見たブラジルを紹介している。
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