需要に供給が追い付かないブラジル、医師までキューバから4000人輸入!?
2013年 09月 27日ブラジル厚生省が実施を開始した、医師不足が顕著な地域に医師を派遣する「マイス・メディコス(Mais Médicos)」という医師拡充政策が議論の的となり、ブラジル人医師によるデモやストライキも発生している。直訳すると「もっと医者を」という政府肝いりプロジェクトである。
ブラジルでは、SUS(国家統一保健システム)という医療制度があり、基本的に無償で医療を受ける権利が国民にはあり、公立病院に行けば特別な手術や薬でない限り、お金は取られない。
しかし、現実には病院に行ってもいつ診てもらえるかはまったくわからず(需要に供給が追い付いていない)、ひたすら待たされた挙げ句、では2-3カ月後に検査に来て下さいというようなことになっており、ブラジル人の間でもSUSで病院に行くと、順番を待っているうちに病状が悪化して死んでしまうということが冗談半分、本気半分で言われているぐらいだ。これが先般のデモの大きな原因の一つとなっている。中間層以上の人は、SUSを使わずに、毎月民間の保険を積み立てて、その積立額に応じた私立の病院に行っている。
SUSの利用者は、地方の中間層以下の人々であり、現在の労働党の大きな票田である。しかし、公立病院は建物も設備も古く、当然医師も最新設備のある給与の良い都会の私立病院に流れており、公立病院は慢性医師不足である。
これに対して政府が打ち出したのがこのマイス・メディコスだったが、契約期間が3年で、週40時間勤務。月給は1万レアル(約42万円)。ただし、時間外報酬やボーナス、年金に該当する費用は含まれず、労働条件が悪いと全国医師連盟などが反対している。
マイス・メディコスは大衆デモの要求に沿ったプログラムであったが、これが今度はブラジル人医師の怒りを買い、ドクターのデモが起こってしまい、国内で大きな議論を呼んでいる。
同プログラムの第一次募集では、全国3511市から1万5460人の医師派遣要請が出されていたが、なかなか国内の医師だけでは応えられず、また政府は奇策を繰り出した。このプログラムに合わせて、なんとキューバから、医師を一気に4000人招くことになった。しかも、外国人の場合は、医学部卒業資格があれば、ブラジルの医師国家資格が必要ないことになっており、これがまたブラジル人医師の反発を買ったわけだ。
しかし、すでに第一陣の400人はブラジルに到着し、研修を開始している。キューバの場合は、給与は直接本人に支払われるのではなく、いったん米州保健機構経由でキューバ政府から支払われるようで、本人に入るのはおそらく25-40%とのことである。今後は、これが連邦検察庁の労働検査局が労働法と憲法に触れるとの見解を示しており、波乱含みの幕開けとなっている。
さらに各市では、外国人医師も含め、派遣された医師の研修が終わったら、現在のブラジル人医師を解雇する動きもある。なぜなら、このプログラムで派遣された医師の給与は政府から払われるわけで、現在自らの予算で雇っている公立病院のブラジル人医師を解雇すれば市の財政負担が減るというわけだ。そうすると、また医師不足になり、元の木阿弥だと思うが、この問題はいったいどこで落ち着くのだろうか?
それにもまして、今回のことでわかったことは、ブラジルのホワイトカラーの給与がいかに高いかである。市は、カットしようとしている医学部を卒業して間もないブラジル人の医師に2万5000レアル(約100万円)払っているらしい。そのうち、日本の医師がブラジルに出稼ぎに行く日も近いかもしれない…。
(文/輿石信男/クォンタム、記事提供/モーニングスター/、写真/Marcello Casal Jr./ABr)
写真は9月23日、マラニョン州シャパヂーニャ。Mais Médicosプロジェクトで来伯、同地に赴任したフアン・モンテイロ・アテンシオ医師