日本の消費税率アップと、ブラジルのインフレ。どちらが大変?

2014年 04月 29日

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4月1日、日本で消費税率が5%から8%にアップされたが、ブラジルでもテレビのニュースや大手新聞紙面において、17年ぶりの増税としてトップ記事扱いで報道された。しかし、取材をした彼らにとって新鮮だったのは、消費者の反応よりは日本のメーカーの増税対策であった。

1990年代から続いているデフレに慣れた消費者が、増税を機に購買を減らすことを恐れ、日本企業が4月1日に合わせてテクノロジーを駆使した新商品を投入したり、既存商品をリニューアルするなど、高付加価値化による価格アップであると認識させ、なるべく消費者に税金のアップを感じさせいなように努力している様は、ブラジル人には単に事実を隠ぺいしようとしているだけと映ったようだ。

一方ブラジルは、4月9日に地理統計院(IBGE)が発表した3月の拡大消費者物価指数(IPCA)で直近12カ月のインフレが6.15%に達したことがわかった。内訳をみると、個人の生活に関わるところが直撃されている。例えば、食料が7.14%、家財費が7.29%、住居費が7.35%、教育費が8.72%、そして個人の支出全体で8.98%の上昇となっている。

日本の消費税は一律で5%から8%へと3%の引き上げとなるが、ブラジルでは法律ではなく、日々の値上げの中で気づかない間に1年で様々なものが6-8%アップしていることになる。日本のメーカーは、消費税率アップ分を技術や調達方法でカバーし、逆に努力により値段を下げるところも出てくるが、ブラジルはまったく逆である。この機にさらに便乗の値上げが出てくるぐらいである。

ではなぜそれが可能となるのか? 日本であれば消費者が財布のひもを固く結び、消費を控えて、一気にデフレになるところであろう。そのカラクリの一つは、ブラジルの労働法で企業は業績の黒字・赤字に関係なく、社員の給与を毎年インフレ率以上にアップをしなければならないことになっている。

ブラジルの労働者は13年から14年になる時に約6%以上給与が上がっているため、日本のように所得も下がり続けている国とは事情が違う。さらに、所属している組合によっては、10%-15%以上のアップを要求してストライキを行うところも出てきて、ほとんどの場合は組合が経営側に勝って高率の賃上げを獲得する。

しかしその結果、利益の減る経営者はそれを価格に転嫁して、商品の値段も上がるという悪循環に陥っている。ブラジル政府はインフレターゲット制を取っており、4.5%±2%を許容範囲としているが、IBGEの調査結果は間もなくその上限に達することを意味している。

さらに今年はワールドカップの年である。6-7月は様々な会社が「便乗値上げ」をし、恐ろしく高くなる。

先日も、ワールドカップ期間にブラジルに来る人から頼まれて、リオデジャネイロのホテルを予約しようとしたが、通常価格が1万4000円ぐらいのホテルがなんと3.5倍の5万円になっている。年間で26.49%上がっている航空券は、サンパウロ-リオ間のわずか40分のフライトが1日の中でも価格差が大きく、早朝は1万円ぐらいだが、夕方以降になると一気に5万円-10万円になる。おそらくワールドカップの期間はさらにこれが3-5倍になるのではないかと思われる。

6-7月のワールドカップをすぎて再び統計を取ると、ターゲット上限の6.5%を超えている可能性はかなり高い。ワールドカップで盛り上がるであろうデモが、さらに広がる可能性があり、10月に控える大統領選挙に大きな影響を与えるだろう。日本の消費税率アップは、極めて粛々と静かに実施をされているようだが、日本の税率アップの倍の数値を超えたブラジルのインフレは、ワールドカップを挟んでさらに上昇し、現政権の存続を揺さぶりそうだ。

(文/輿石信男/クォンタム、記事提供/モーニングスター、写真/José Cruz/Agência Brasil)
写真はブラジリアの魚市場、4月17日