ブラジルの貿易赤字、5年で150%増に

2014年 10月 28日

パラナ州パラナグア

ブラジルの経済が、政府の不作為によっていかに傷ついているかというデータが10月21日付のブラジルの有力紙「フォリャ・ジ・サンパウロ」に掲載された。

ブラジル全国工業連盟とWTO(世界貿易機関)のデータを基に、G20(主要20カ国・地域)のメンバー国の08年から13年の5年間の貿易収支の比較をフォリャ紙がまとめたものである。

ブラジルの貿易赤字額は、この5年間でなんと150%も増えており、G20のメンバーのなかで19位であった。後ろにはサウジアラビアしかいない。

08年から13年ということは、日本ではその間に東日本大震災があり、大量のエネルギーを海外から輸入せざるを得なくなり、劇的に貿易赤字が膨らんだ時期でもある。しかし、実はその日本は13位でマイナス35.8%、ブラジルの5分の1程度である。

これは円安のおかげで輸出の拡大が輸入の伸びを抑えたからかと思ったが、日本の工業製品の輸出は最下位でマイナス9.7%。政府の円安誘導はまったく効果がなく、逆にエネルギー輸入額を押し上げているだけではないかといえるが、ブラジルも同様で、この数年はレアル安にも関わらず、マイナス1.7%と、同じBRICsのインド(プラス64.5%)、中国(プラス56.0%)、ロシア(プラス8.2%)が大きく輸出を伸ばすなかで、ひとり沈んでいる。

そして、当然だがレアル安が進むなかで、輸入が増えれば物価が上がる。

ブラジルはインフレターゲット制をとっているが、今年のインフレ率はついに上限の6.5%を突破する勢いである。特にブラジル人の好きな牛肉、ビール、コメが上昇しており、食卓を直撃している。食材の仕入れが高くなるレストランも値上げをするので、家で作って食べる人が増えているようだ。

さらに、これまで昼食は仲間と話しながらの外食が定番のブラジル人のなかに、弁当を持って来る人が増え始めたのは驚きである。

人気レストランやバーは一見今まで通り、お客さんであふれているように見えるが、実は料理を頼まずに、ビールだけで長時間過ごす人が増えているらしく、レストランやバーのオーナーの話では、ワールドカップがあったにもかかわらず、昨年と比べて軒並み売上が20%ほどダウンしているという。工業、商業、家計、いずれも厳しい状況に陥っているブラジル経済の傷は、構造的で深いといわざるを得ない。

10月26日のブラジル大統領選挙は現職のルセフ・ジルマ(ジウマ)氏が再選を果たした。政策面やテレビでのディベートを見ても、ブラジルでビジネスをする立場では、経済改革に重きを置くアエシオ・ネベス氏に期待していたが、かなわなかった。ルセフ・ジルマ政権が継続するということは、このまま下降線をさらに落ちていくということに他ならない。

(文/輿石信男/クォンタム、記事提供/モーニングスター、写真/Appa)
輸出が成長している分野もある。写真は7月23日、パラナ州パラナグア。2014年の上半期、パラナグア港から輸出された鶏肉は55万7000トン。前年比で20.5%増だった。主な輸出先はサウジアラビア、日本、香港、中国、アラブ首長国連邦など