グアルーリョス空港に15年間住み続ける男

2015年 06月 1日

グアルーリョス

サンパウロの主要ハブ空港で、ブラジルの空の窓口でもあるグアルーリョス国際空港。

この空港の中で15年ものあいだ生活しているひとりのブラジル人男性が、現地メディア「UOL」などで話題になっている。

デニス・ルイス・ヂ・ソウザさんは2000年のある朝、たび重なる継母とのケンカの末に家を飛び出し、バスでグアルーリョス空港へと避難してきた。

それ以来デニスさんは、従業員同士のメッセンジャーとして働きながら、空港内で暮らしている。デニスさんの収入は、メッセージを受け取った従業員たちからもらえるチップだという。

グアルーリョスにやって来たときはまだ10代だった彼も、もう32歳。今では、空港の従業員で彼を知らない者はいないし、彼も全員と顔見知りだという。空港の隅々、各店舗の詳細までも知り尽くしているという。

この15年間で起こった、ブラジル大統領の2度の交代、コリンチャンスのリベルタドーレス杯優勝、2度のW杯やクラブW杯なども、すべて空港を出ることなく見てきた。

デニスさんはフレンドリーで、よく笑う人。しかし、会話は不完全で短く、月と週を区別しないことも。文字は読めないけれど、いつも新聞を腕の下にはさんで空港内を散歩する。

お気に入りのサッカーチームであるコリンチャンスの勝敗を除いては、空港の外で何が起きているのか、彼はほとんど興味がない様子だという。

従業員たちも、そんな彼に食べ物を準備したり、衣類を洗ったり、時には自宅から持ってきたものをシェアしたりもする。

彼の少ない所持品は、店舗内の電話ボックスの中に保管しており、店員たちは彼の世話役となっているという。

代わりにデニスさんは、薬局で薬を受け取ったり、宝くじを買いに行ったり、電気代を支払いに行ったりと、店員のおつかいを頼まれるという関係なのだ。

デニスさんの食事は、ブラジルの代表的家庭料理であるアホース・コン・フェイジョン(フェイジョン豆とごはん)が定番。ラッキーな日は、マクドナルドの好意でカフェ・コン・レイチ(カフェラテ)も付いてくるのだとか。

シャワーは47ヘアイス(レアル)と高級なため、土曜日のみ浴びるという。

「僕は綺麗な部屋がある家を持ちたいし、この生活から抜け出したほうが良いとも思う。でも、ここでの暮らしがすごく落ち着いてるんだ」と、デニスさん。

毎年クリスマスには、ベッドで眠り良質なシャワーを浴びることができるよう、パイロットの1人が彼にホテルを一泊プレゼントしている。

最後のフライトが離陸し終わった明け方、ひとりになったと判断するとデニスは眠りにつく。ベッドは常に同じ、ターミナル2の待合室のアームの無い3席。青い毛布と枕で眠る。眠っても明日の予定はない。家を持つ夢を見るけれど、手に入れる方法がわからないとデニスさんはいう。

そんなデニスさんのいくつかの言動は、継母からの虐待による心理的な後遺症かもしれないと疑われているが、真偽は不明だ。

これについて、グアルーリョス市役所の社会サービス課は、デニスさんについて特に気にしてこなかった。彼自身も、子供の頃から医者にかかったことは無いと話しているという。

20年間グアルーリョス空港内の保険会社に勤務し、デニスさんのことをよく知るフラヴィオ・ファリアさんは、こう言う。

「彼には心理学的または精神医学的な治療が必要。彼は自分の世界の中に住んでいますが、診断と面倒を見てくれる人が必要だと思うよ」

空港の友人たちは、まじめに生活を送る彼のことが好きだが、このような暮らしを作りあげるには時間がかかったことを認識するとともに、彼の外の現実世界への敵意が大きすぎることを懸念している。

「今後デニスは家が必要になると思うけれど、もう戻って来れなくなるのでは?私は、彼は一度出ると戻って来れなくなることを恐れているのだと思います」毎朝彼の毛布と枕を保管してあげている電話ショップの若い女性はそう述べた。

24時間開かれている公共の場の空港から、誰も追放することはできない。たとえ15年間でも、一定の基本的なルールを満たしていれば、出入りの多い空港内で、彼の存在に気付くことは困難だと記事は言う。

(文/柳田あや、写真/Marcelo Camargo/(Arquivo) Agência Brasil)
写真はサンパウロのグアルーリョス空港