ブラジル、深刻化する雇用・工業生産減少と稚拙な政策

2015年 11月 25日

雇用保護プログラム2015

今年(2015年)の1年間でブラジルの雇用数の減少が100万人を超えそうな状況になってきた。

ブラジル労働省発表の15年8月の正規雇用数(前月比)は8万6543人減となっており、4月から5カ月連続で減少している。15年1~12月累計ベースでは、100万人を超える減少は避けられないだろう。

ブラジル地理統計院(IBGE)の発表でも工業部門の雇用者数減は7カ月連続で、15年1~7月で5.4%、前年同月比6.4%となっている。平均所得も前月比1.8%減、前年同月比で7%低下している。

04年にはGDP(国内総生産)全体の17.88%%を占めていた工業生産(鉱業・土木除く)は、15年は10%を切り、9%程度に落ち込む見通しと危機的状況にある。

本来なら1ドル=4レアルを超えたレアル安を生かし輸出が増えそうなものだが、この10年間で中国を中心とした格安の輸入品に押されて廃業した企業も多く、製造業の弱体化が年々進んでいることから、今回の経済悪化がさらに拍車をかけそうな情勢となっている。

雇用減少に歯止めをかけるために、政府も7月6日に、企業が従業員の仕事量を30%減らす代わりに賃金を6カ月間(さらに6カ月延長可能)最大30%まで削減でき、減額分の15%を労働者支援基金が補てんする暫定令680号・雇用保護プログラム(PPE)を作成し、大統領が署名、翌7日公布した。

このプログラムに参加した企業は、その期間従業員を解雇することができないため、政府としては解雇を防ぐと同時に失業保険支給額を節約でき、所得税などの徴収を考慮すると5万人の労働者が加入した場合、政府の歳出削減が6800万レアル(約21億円)に上ると皮算用していた。

だが、実際フタを開けてみると、当初基金の支出は15年と16年の2年間で約9760万レアルと見積もっていたが、すでにプログラム参加が決まったメルセデスベンツをはじめとする6社だけで3950万レアルに上り、この6社を含む、わずか33社で2年間の予算の70%使い切ってしまうことが明らかになってきた。このプログラムは雇用減少を食い止める切り札にはなりそうにない。もっと抜本的な経済対策が必要だ。

10月3日に発表した内閣改造でようやく省庁の数を39から31に減らして、自らの身を削り始めたが、まずは汚職まみれの政治の実態を明らかにし、政治家がポケットに入れたお金を国庫に返却させ、彼らを政界追放するところから始めなければ、職を失って厳しい年末を迎える国民の納得は得られないだろう。

(文/輿石信男(クォンタム)、記事提供/モーニングスター、写真/Roberto Stuckert Filho/PR)
写真は11月19日、ブラジリア。大統領府で雇用保護プログラム(PPE)法の確定式典が行われた