テメル政権の経済改革。期待と不安の交錯する2017年
2017年 03月 20日テメル政権は、ポピュリズム的財政政策と経済への国家介入が経済の激しい落ち込みを招いたルセフ政権の反省に立ち、2015年に失った投資適格を取り戻すことを目標に、短期の即効的景気回復策よりも長期的な構造改革に軸足を置き、持続可能な財政の確立と競争力の強化を柱とする施策に取り組んでいる。
(1)ハイライトは何といっても憲法を改正して歳出の伸びに20年に亘る上限(キャップ)を設定したことである(12月13日の上院本会議で憲法改正案が最終承認、15日発効)。
本改正は2036年までの20年間、利払いを含まない連邦歳出の伸びを前年のインフレ率の範囲内に抑える、すなわち歳出を実質ベースで2016年レベルに固定せんとするもの。
前例のないショック療法であり、種々批判はあるが歴史的な一歩といえよう。2027年以降の10年については上限設定方式を再検討ことになっている。ブラジルの歳出構造は憲法・法律で定められた義務的支出が9割を占め、さらにその4割が社会保障費であることから極めて硬直的となっている。
(2)歳出キャップの実効性を確保するためには財政改革の本丸ともいうべき社会保障(特に年金制度)にメスを入れることが不可欠であり、政府は12月6日、年金改革案を議会提出した。
老齢退職年金の受給開始年齢を25年以上の納付を要件として男女一律、官民一律65歳とする(現在の平均的退職年齢は54歳)。
本年の議会で審議される予定であるが、国民の生活を直撃するものだけに難航が予想される。
(3)競争力強化に向けた基盤創りの施策としては、2017年にはビジネスコストの引き下げに向けて硬直的な労働慣行(12月22日改革案提出済み)、複雑極まる税制の改革にも着手する意思を示している。また9月に発表したProgram for Partnership and Investment (PPI)のもと、供給サイドの深刻な制約となっているインフラ事業について大規模な民営化・コンセッションを推進するとしている。国家管理のもとにあったインフラ事業に内外の民間セクターから多様なプレーヤーを取り込むとの方針である(次ページへつづく)。
(文/岸本憲明、記事提供/日本ブラジル中央協会、写真/Edilson Rodrigues/Agência Senado)
写真は2016年12月15日、公共支出を抑える憲法改正を発効した上院本議会