【コラム】ブラジルでは投票は「義務」!? 投票しないと罰則!?
2018年 12月 7日日本を含む世界196か国のほとんどの国や地域において、選挙での投票は「権利」ということになっていますが、20弱の国や地域において投票は「義務」になっています。
ブラジルも投票が「義務(obrigatório)」になっている国のひとつです。
実は、投票が義務となっている国は南米に多く(ブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、エクアドル、ペルー、ボリビア)、その他では、オーストラリア、フィリピン、エジプト、トルコなどがあります。
GDPの世界ランキング上位の国で見ると、トップ10位のうち、未だに投票が義務になっている国は、唯一、ブラジルのみです(世界9位)。
この記事では、ブラジルで投票にいかなかった場合、何が起こるのか? そもそもなぜ投票が義務になっているのか、についてご紹介します。
ブラジル人(18歳から70歳で文盲ではない者)が大統領選挙などに投票しなかった場合、次のような罰則が科せられます。
投票権者名簿からの抹消
パスポート申請不可
IDカード申請不可
公務員の場合は給与受取不可
金融機関からの融資不可
公的な役職への就任不可
公的教育機関への入学不可
学位証明書の取得不可
ブラジルにおいて選挙に行かない場合にはかなり厳しい罰則規定が科せられてしまいます。
16歳、17歳、71歳以上のブラジル人の場合は、例外的に投票は「自由」ということになっています。
投票日に選挙に行けない場合は、事前にウェブサイト上で「その理由」を申告しなければなりません。その際に「やむを得ない理由」で投票を棄権することを証明する書類を添付します。当該申請は裁判官により分析されます。筆者の知り合いのブラジル人は、10月に研修で日本に来ていたので、当該申請をしなければならないと話していました。
インターネットでの申請の他、投票日に投票所に行き、「やむを得ない理由」を申告する方法もあるようです。投票日に投票所に行けるなら投票すれば良いじゃないか、と思うのですが…。
また、投票日までに上記の手続きができなかった場合には、後日、登記所へ行くか、郵送で所定の申告書(RJE)に記入したものを提出することにより、「やむを得ない理由」を説明することが必要です。
投票日に投票せず、所定の期日までに「やむを得ない理由」を申告しなかった者には罰金が科せられます。ただし罰金は1~4レアル(100円程度)と高くはありません。選挙管理委員会(TSE)のウェブサイトで振込依頼書を発行し、納付します。
罰金は、公共料金などと同様にスマホアプリや銀行のATMなどで支払うことができますが、そのままでは効力を有さないため、罰金支払い時の証明書を持参して登記所に足を運ばなければなりません。
①投票に行かず、②期日内に「やむを得ない理由」の申告をせず、③罰金すらも支払わなかった者については、冒頭でご説明したような、重たい罰則規定が科せられることになります。
ブラジルで選挙が義務とされている背景にはいくつかの理由があります。
1)ブラジル国民の多くが貧困層で教育水準も高くないため、彼らが「選挙権」というものを理解していない。もし、自由選挙にしてしまった場合には、彼らの「権利」を奪うことになってしまう(という為政者による価値観の押し付け)。
2)投票を義務化することで、国民が定期的に国政について考える機会を提供し、国民の政治的関心を高める狙いがある。
3)国民の大部分が投票に参加することで、選挙の有効性を高めることが期待される。
ブラジル選挙法第136条(art. 136 do Código Eleitoral)には、以下の通り規定されています。
「最低でも50名の有権者が居る場合には、村落、集落、病院(視覚障害者・ハンセン病療養所を含む)において投票のための設備を設置することを要する」(ブラジル選挙法第136条)
この規定に基づき、ブラジルでは「刑務所」でも投票が行われます。ただし、囚人のうち投票するのは容疑を係争中の囚人のみで、罪が確定している者は投票することができません。
ついでながら、4月から収監されているルーラ元大統領に関しては、本人が投票権を主張していますが、同氏が収監されている刑務所での最低人数(50名)に達していないため、投票できないことが決まっています。
また、アマゾンのジャングルの奥地に住む住人についても、文盲でなければ投票権があるため、選挙管理委員会はジャングルの奥地に出向いて、彼らが投票できるような環境を整えます。
(文/唐木真吾、写真/Agência Brasil/Fabio Rodrigues Pozzebom)