ブラジルの近代写真の先駆者「トマス・ファルカス写真展」はじまる

2019年 10月 9日

「トマス・ファルカス写真展」駐日ブラジル大使館(撮影/麻生雅人)

ブラジルの近代写真の先駆者トマス・ファルカスの、日本で初となる作品展が10月4日(金)から駐日ブラジル大使館(東京・青山)で開催されている。

開催初日である4日(金)に行われた開会のあいさつでエドゥアルド・パエス・サボイア駐日ブラジル大使閣下は、「ブラジルの社会や人々の日常的な姿を捉えたトマス・ファルカスの視点は日本語の“写真”が意味するとおり“真実の写し”です」と、ファルカスの写真を紹介した。

開会のあいさつを行うエドゥアルド・パエス・サボイア駐日ブラジル大使閣下(撮影/麻生雅人)

この日行われたトークショーには、東京都写真美術館の関次和子チーフキュレーターと写真家の田村彰英氏、父親と同じ写真家の道を歩むジョアン・ファルカス氏とキコ・ファルカス氏が参加した。

トマス・ファルカスがどんな写真家だったかと尋ねられた キコ・ファルカス氏は、父親でもあるトマス・ファルカスが自身の写真集「個人的なアンソロジー」に寄せた文章を紹介した。

左から 田村彰英氏、ジョアン・ファルカス氏、キコ・ファルカス氏(撮影/麻生雅人)

「写真、それは私にとって最高の人生の楽しみ方です。/それは、景色や人々、顔、グループ、街路、建物の入口、広場など、そこで皆が、働いたり、遊んだり、休んだり、食べたり、踊ったりしているのをみて、発見することです。/そしてそれらはすべて、人生の経験、常に見たり、気づいたりする、私たちの人生です。/だからカメラの機種、技術、フィルムのあるなしを問わず、ずっと撮りつづけるのです。/ファインダーやリフレックスレンズ越しにみると、すべて終わることがなく、毎日が違うのです。/見るたびに異なっていて、世界がいかに広いかに気付くのです!/写真家になることは素敵なことです!/あるいはポルトガル人の同業者フェルナンド・レモスの言葉を借りるなら、行動的な魔術師です」(「個人的なアンソロジー」2011年より)

1932年、8歳の時に父親からはじめて写真機を与えられたトマス・ファルカスは、18歳でバンデイランチス写真クラブに入会。クラブの会員だった写真家のジェラウド・ヂ・バホス、ジェルマン・ロルカなどと共にブラジル近代写真形成の流れを作ったという。

この頃の作風は建築や景観などの静物から、水や反射、光と影などを素材にした幾何学的・抽象的だったが、やがて視点は人文主義的になり、作風もフォトジャーナリズム的、ドキュメンタリー的な色が濃厚になっていったという。

「トマス・ファルカス写真展」駐日ブラジル大使館(撮影/麻生雅人)

本展覧会でも展示されている、新首都ブラジリアを建築段階から遷都の日までをドキュメント化した作品では、建築物そのものよりも、建築や遷都における人間的要素に関心が向けられている。

そしてトマス・ファルカスのドキュメンタリー志向は、数本のドキュメンタリー映像作品に結実している。

60年代末から70年代に制作されたこれらの作品は、民芸品の木彫り人形職人や泥人形職人など当時の北東部の人々の生活を捉えたシリーズや、ビリンバウやクィーカなど民族楽器を通してブラジルの文化を紹介する、貴重な映像だ。本展覧会ではオーディトリアムにて8本のドキュメンタリー短編映画を、日本語字幕付きで上映している。

上映作品のひとつ「 O Berimbau」(1978年、9分56秒)(撮影/麻生雅人)

「トマス・ファルカス写真展」は10月31日(木)まで駐日ブラジル大使館(東京都港区北青山2-11-12)にて開催中(開館:月~金、 10:00~13:00 / 15:00~17:00)。入場無料。

(文/麻生雅人)