シリーズ「危険なルート:生計と移動手段のために危険を承知でバイクに乗るブラジル人」第五回(前編)

2025年 08月 11日

mototaxi99
配車アプリで利用するバイクタクシー「99」(写真/Paulo Pinto/Agência Brasil)

ブラジルの二大都市は、アプリを通じた交通サービスへの対応で異なる道を進んでいる。

サンパウロ市は、バイクの脆弱性に伴うリスクを理由にバイクタクシー(※現地ではモトタクシーと呼ばれる)のサービスを禁止した。一方、リオデジャネイロ市は、各プラットフォームに対して規則の統一と交通違反への取り締まり強化を求めている。

シリーズ「危険なルート:生計と移動手段のために危険を承知でバイクに乗るブラジル人」の第5回報道で、アジェンシア・ブラジルは両都市を対比させて取り上げる。

2025年の初めから、サンパウロ市政府とアプリプラットフォーム各社は、市内でのサービス提供の許可をめぐって法的な争いを繰り広げている。

企業側は、国内でのサービス提供を認めていると解釈できる連邦法を根拠に訴えている。市当局は利用者への危険性を理由に、バイクタクシーに規制する市条例を制定した。ブラジル交通医学協会(Abramet)によると、バイクによる事故は自動車と比べて、致命的な結果を招く可能性が17倍も高いという。

1月、サンパウロ市のヒカルド・ヌネス市長は、配車アプリ「99」は「殺人者だ」と呼び、サンパウロに虐殺をもたらそうとしているとまで言い放った。これに対し、プラットフォーム側は、サービスを禁止する市の条例は違憲であると反論し、安全な移動手段の提供に尽力していると表明した。

「この企業がサンパウロにやって来て虐殺を引き起こすことは、絶対に許さない。彼らは殺人者だ。こうした企業は、殺人企業であり無責任だ。これらの企業が、ただ利益を追い求めるために意図していることを、サンパウロ市内で行うことは許さない」とヌネス市長は強調した。

6月、タルシジオ・ジ・フレイタス・サンパウロ州知事は、オートバイによる個人旅客輸送サービスの規制について、各自治体に裁量を与える法律に署名した。これを受けて、サンパウロ市政府は、同輸送形態が市議会で議論中である限り、運用を認めない方針であることを改めて明確にした。

「市政府が署名したこの法律は、バイクタクシーの市内でのサービスを禁じるというサンパウロ市の方針を裏付けるものです。市当局は、乗客の死亡事故を招いた事例を踏まえ、危険性が明らかになっているこの輸送手段の提供を防ぐため、断固たる姿勢で対応しています」と市役所は述べた。

一方、リオデジャネイロ市当局は、主要な配達・交通プラットフォームと協力協定を締結し、データへのアクセスを得ることで、危険箇所の特定や規則の統一化を図る取り組みを進めている。この協定の成果は、8月中にも公表される予定となっている。

「近いうちに、すべてのアプリケーションに最低限のルールを設けるための、均等化・標準化の措置を発表します」とエドゥアルド・カヴァリエリ副市長は述べた。

「多くの配達員(バイク運転手)が複数のアプリを通じて働いているため、プラットフォーム間でルールを統一する必要があります。そうすることで、アプリからアプリへ移る理由がなくなり、また、ルールを守らないことで利益を得るようなプラットフォームをなくします」(エドゥアルド・カヴァリエリ副市長)

リオ市は、配達員やバイクタクシー運転手のための支援拠点をプラットフォームの協力を得て設置していく予定で、市内の道路におけるバイク専用レーンの拡充も目指している。

「私たちはこの取り組みをますます進めていきたいと考えています。これはバイクを使った仕事を通じて家族を支える起業家たちを支援するという観点に基づいています」とカヴァリエリ副市長は語る。

しかし同氏は、パンデミック以降バイクの登録台数が5倍に増加したことに触れ、リオ市ではバイク事故の“感染拡大”とも言える状況が起きていることを認めている。

2025年1月から6月の間に、リオ市の公立医療機関だけで、バイク事故による負傷者14,497人が救急病院で治療を受けた。これは、同市で1日あたり約80件の対応が行われた計算になる。

今月1日(金)には整形外科の専門施設として知られるバラータ・ヒベイロ市立病院にアレシャンドリ・パジーリャ保健相が訪問し、「アゴーラ・テン・エスペシャリスタ」プログラムの一環として、手術・診療・検査の対応能力を3倍に拡充する支援策を発表した。

※シリーズ「危険なルート:生計と移動手段のために危険を承知でバイクに乗るブラジル人」第五回(後編)へつづく。

(記事提供/Agência Brasil、構成/麻生雅人)