アナ・フランゴ・エレトリコがが五箇山・和紙の里で和紙アートに初挑戦

2026年 02月 27日

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マリア・カウ・レヴィ、アナ・フランゴ・エレトリコ、石本泉による共同制作作品展「CASCA – 樹皮」は駐日ブラジル大使館にて3月6日まで開催(撮影/麻生雅人)

サンパウロの建築家、グラフィックアーティストのマリア・カウ・レヴィと、リオデジャネイロの音楽家・現代アート作家のアナ・フランゴ・エレトリコが、日本の文化庁の助成を受けたレジデンスプロジェクトに参加して富山県南砺市に滞在し、和紙を使ったアート作品制作を行った。

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作品を解説するアナ・フランゴ・エレトリコ(右)、石本泉(中)(撮影/麻生雅人)

「CASCA – 樹皮」と題されたこのレジデンスプロジェクトは、南砺市で1991年より続く音楽フェスティバル「スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド」の一環として行われたもの。

1月13日(火)~1月27日(火)の期間、五箇山和紙の里(富山県南砺市)に滞在した両名は、初めて手にした和紙について学びながら、地元の和紙職人・石本泉と共にコラボレーション・アート作品の共同制作を行った。

同レジデンスの参加アーティストの3名は作品制作のほか、南砺市での地元住民との交流を行った後、2月17日からは駐日ブラジル大使館(東京・青山)にて作品展を開催している。展示は3月6日まで。

同大使館で開催された開会式で駐日ブラジル大使館文化部のハファエル・フランサ部長は「本展は、和紙に制作工程を軸に、伝統的な技法と現代的な表現が出会い、新たな関係性を紡ぐ姿を、マリア・カウ・レヴィ、アナ・フランゴ・エレトリコ、石本泉による共同作品を通してご覧いただくものです」と述べた。

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作品を解説するマリア・カウ・レヴィ(左)。右はアーティストトークのモデレーターを務めた早稲田大学のペドロ・エルバー教授(撮影/麻生雅人)

マリア・カウ・レヴィはサンパウロ大学建築・都市計画学部で修士号を取得後、建築家、デザイナーとして活動。エスコーラ・ダ・シダージでは教授も務めている。

「今回、それぞれクセが強く、あまり交じり合わなさそうな個性を、どのような形でひとつに混ぜ合わせることができるかが、最大の挑戦でした。アナ・フランゴ・エレトリコは音楽家でもあり、アーティストでもあります。石本泉先生は、和紙の職人であると同時に和紙を使った建築や、プロダクトも作っているアーティストとしても活動しています」(マリア・カウ・レヴィ)

「スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド」から日本での作品制作を打診されたことをきっかけに、南砺市に和紙作りの伝統があることを知ったのがプロジェクトのすべての始まりだったという。

「私たちが使ったことのない素材で、私たちが作ったことのないアートを作ることができるということに興味深く思えたのです」(マリア・カウ・レヴィ)

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マリア・カウ・レヴィ、アナ・フランゴ・エレトリコ、石本泉による共同制作作品展「CASCA – 樹皮」は駐日ブラジル大使館にて3月6日まで開催(撮影/麻生雅人)

和紙について下調べをするため、サンパウロ市にあるジャパンハウスで、柳宗理に関する本と出合った。

「この中で和紙について、“ただの紙ではなく、和紙自体がアートである”と書かれていたのが印象的でした。そこで私たちは、和紙に絵をかいたり色を付けたりするという安易な発想に留まりたくなく、和紙作りから関与して、和紙作り自体をアートに昇華させる試みに挑戦することにしました」(マリア・カウ・レヴィ)

石本泉は、白川郷のある岐阜県との県境、富山県南砺市にある合掌造りの集落、五箇山で和紙作りに取り組んでいる職人。和紙作りから、和紙を使った製品の制作、紙漉き体験の指導などを行っている。アーティストトークでは、和紙の作り方を解説した。

「春、5月くらいになると楮(コウゾ)の芽が出ます。1か月くらいで20㎝位に伸びてくるので、草をむしったり間引きをします。それから1か月くらいして人間の伸長位に伸びた頃に枝を落とし、11月頃、収穫を行います。12月に入るとこれを原木のまま蒸して皮をはぎます。和紙に使うのは、この皮の部分だけになります」(石本泉)

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合掌造り家屋で知られる五箇山を紹介する石本泉(右)(撮影/麻生雅人)

レジデンスプロジェクト名の「CASCA – 樹皮」は、和紙の原料に由来している。

「ただし、楮の皮だけでは和紙は作れません。トロロアオイという植物の根っこを潰してつくる“ねり”と呼ばれる粘液を、繊維にした皮といっしょに水に溶かしてはじめて、紙漉きが始まります」(石本泉)

今回のプロジェクトでは、マリアとアナは、実験的に小さなサイズでの紙漉きから和紙作りを体験する中で、自分たちがどういったものを作りたいかを探っていったという。

「和紙作りを通じて、色を使った和紙を作りたいという希望がふたりから出てきました。しかし、一から和紙に染色を行うことはレジデンスプロジェクトの期間では不可能だったため、いろいろアイディアを出し合う中で、すでに色がついている和紙をいったん溶かし直し、これを原料にして使いたい色の和紙を作ることにしました」(石本泉)

「私とアナには、ブラジルの現代美術にも焦点を置きながら今回の制作に取り組みました。とりわけ、コンクレティズム、ネオコンクレティスムの表現が念頭にあったことが、私たちが色を使いたかった理由です。リジア・クラーク、エリオ・オイチシカといったアーティストの影響を受けた、芸術的な対話を通じての制作だったと思います」(マリア・カウ・レヴィ)

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マリア・カウ・レヴィ、作品の前で(撮影/麻生雅人)

11年前に紙を使ったアートの制作を行ったことがあるというアナ・フランゴ・エレトリコは、和紙作りを通じて、ブラジルらしい紙のアートを制作する新しいヒントを得ることができたと語った。

「和紙の作り方さえ学べば和紙はどこでも作れるというものではなく、和紙作りには、土地の環境が密接に結びついています。今回の五箇山の和紙なら、土地で採れる材料である楮やトロロアオイだけでなく、この土地ならではの雪解け水も使われています。これらはブラジルにはありませんが、逆に言えばこのことが、どうすればブラジルらしい紙づくりを行うことができるかというヒントになりました」(アナ・フランゴ・エレトリコ)

それは、ブラジルで身近にある、ブラジルを象徴するような植物から採れる材料を使った、ブラジルらしい紙づくりだ。

例えば、サトウキビ。16世紀にポルトガル人が上陸して持ち込んだサトウキビは、以来現在に至るまでブラジルの基幹産業のひとつである砂糖産業を支えているだけでなく、自動車の燃料(エタノール)や航空機燃料(SAF)をも生み出している。

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和紙作りの技術によるサトウキビ紙作りの構想を語るアナ・フランゴ・エレトリコ(撮影/麻生雅人)

「私の家の近くで毎週開催される青空市で必ず出るサトウキビジュースの屋台では、多くの搾りかすが出ます。この繊維を使った紙づくりができるのではないかと考えています。実際、ブラジルではサトウキビの繊維を使った紙は存在していると聞いています。しかし、和紙作りは行われていないと思いますし、サトウキビの繊維が適しているかどうかは、やってみなければわかりません。ブラジルに帰ったら試してみたいと思います。“ねり”には、トロロアオイと近い種であるオクラがブラジルにはあります」(アナ・フランゴ・エレトリコ)

近い将来、アナ・フランゴ・エレトリコが発表する新しいレコードのジャケットに、彼女が作ったブラジルならではの紙がつかわれる日が来るかもしれない。

展覧会「CASCA – 樹皮」は駐日ブラジル大使館(東京都港区北青山2-11-12)にて3月6日まで開催(平日10時~16時)。入場無料。

(文/麻生雅人)