2014年大会はブラジルの歴史上、最も政治と絡んだW杯!?
2014年 07月 17日悲喜こもごものワールドカップも終わり、ブラジルでは数カ月後に大統領選を控えている。
「W杯、ひいてはブラジルの歴史上、こんなにW杯と政治が絡んだことはない」。こう明言するのはサンパウロ大学(USP)の歴史学者フラヴィオ・デ・カンポス氏だ。
同氏によれば、そもそも大会の開催そのものが選挙戦の日程などに影響を及ぼしている上、ブラジルが準決勝でドイツに完敗したことで有権者が気分を害すれば、その悪影響を最も被るのは再選を狙うジウマ・ルセフ大統領になると予想されるという。
前代未聞のW杯“政治化”と説明する同氏の分析は、次のようなものだ。
「昨年の6月(コンフェデ杯の開催月で、それをはさむように抗議行動が展開された)以降、政治の動きは大会の展開に追随するものだった。開幕日の直前、国民の白けたムードが社会を支配していたが、開幕してみると徐々に変化していった。国民はやはりブラジル代表を応援し始め、5月や6月初旬は毎日のように全国で起きていた種々のデモが、見るからに少なくなっていった」
—-“ショッピングセンター”のサポーター
「特に、開幕試合の大統領への野次は、スタジアムにいた観客がどのような層の人々だったのかを如実にあらわした。そこにいたのは、普段の国内や州のリーグの試合にはめったに足を運ばない人々だ。“劇場に行くような人々”と形容した人もいるが、そうではない。つまりこの中間層の人々は観劇を楽しむような文化を持っていないからだ。怒りと憎しみを抱くショッピングセンターの客なのである」
—-選挙への影響は?
「ブラジルが4位に終わった今回のW杯は、既に選挙の結果に影響を残した。スタジアム建設への巨額の投資やその金の横流しなどに疑問を呈した国民のデモが大量発生した昨年6月から、大統領の支持率は目に見えて落ちていた。しかし、ブラジル代表の試合結果やその後の展開でまた少し上がり始めた」
「W杯を選挙目的に“私物化”するのはごく普通のことで、しかも予想されていたことだ。ドイツのアンゲラ・メルケル首相はロッカールームで選手と写真を撮り、オランダ王室も同じことをしていた」
「W杯の主な主催者である連邦政府が、その“配当金”をせしめようとすることや、野党候補がW杯で生じた波に乗ることもきわめて普通のことだ。国民と波長を合わせようとする試みは、政治、選挙戦略の一部である」
—-ジウマ大統領は敗北?
「ジルベルト(ジウベルト)・カルバーリョ大統領府総務長官が言うように、開幕試合への野次はエリートだけから発せられたものではない。PT(労働者党)では政治的な議論が十分ではない」
「PTにはW杯が生んだポジティブな要素を擁護する人がいないばかりか、野党がW杯の組織化や運営のまずさ(準備の遅れなど)を選挙戦の攻撃材料としようとしていると指摘する人が今も、そしてこれからもいない。でも、これも民主主義ゆえに起きることにほかならない」(13日付エスタード紙より)
(記事提供/ニッケイ新聞、写真/Roberto Stuckert Filho/PR)
7月13日、リオデジャネイロ、ドイツ対アルゼンチン戦が行われたマラカナン。左からプーチン大統領(ロシア)、FIFAのゼップ・プラッター会長、ジウマ大統領、メルケル首相(ドイツ)