左翼政党が次々に保守派応援? 大統領選に見る伯国政界構造の複雑さ
2014年 10月 11日現在、(10月)26日に行われる大統領選挙の決選投票に向け、与党・労働者党(PT)のジウマ大統領と、対抗馬のアエシオ・ネーヴェス氏(民主社会党・PSDB)が争っている。
現状では「政治改革」を目指すアエシオ氏の勢いが目立っているが、そこでは他の国の人から見れば不思議なねじれ現象が起きている。
今回の選挙は、経済政策がうまく行かず、汚職も非常に目立つPTをはじめとした現政権と、改革を求める野党との対立が焦点となっている。現在、そんな与党に対し、アエシオ氏が改革派の代表格として持ち上げられている状況だ。
ブラジルでは、大統領選の一次投票で上位2位に入れずに敗れた候補は、どの候補の支持を行うかを表明することができるが、今回のアエシオ氏は、エヴェラウド氏のキリスト教社会党(PSC)、エドゥアルド・ジョルジ氏の緑の党(PV)、マリーナ・シウヴァ氏のブラジル社会党(PSB)の支持を獲得した。
これは事情を知らないと、普通のことに見えるが、理屈で考えると不思議なことだ。
なぜならアエシオ氏のPSDBは、企業家に信頼の厚い保守派の政党であるにもかかわらず、「政権交代への期待」の名をもとに、左翼政党が右翼イメージの強い政党の支持に回っているからだ。
もっとも、キリスト教的倫理観を背景に持つPSCが保守派の支持をすることは理屈が通るが、本来、左翼政党のPTよりもさらに左寄りのPVとPSBが共にPSDBの支持に回っており、しかもそれが改革を求める国民から好感を持って迎えられているのだ。
この流れに対し、少政党ながら一次投票で4位と健闘した社会主義自由党(PSOL)のルシアナ・ジェンロ氏は、急進左派政党のイデオロギーを尊重する形で「どちらの候補も支持しないが、票を入れるならジウマ氏」とした。
一方、一次投票第3位で国民の約22%から支持を得たマリーナ氏は、所属のPSBはアエシオ氏支持を選んだものの、本来が自身の政党立ち上げに失敗した都合上、PSBに便宜上籍を置いていることもあり、個人意思が尊重されている。
マリーナ氏は元PT党員で、本来はPTの路線よりさらに理想主義的な人物だ。そうしたことから、改革は目指すものの、イデオロギーの立場上、アエシオ氏への支持を躊躇している状況だ。
こうしたマリーナ氏の態度に「改革派なのになぜアエシオに協力しないのだ」といぶかしがる国民もいるが、政治理論上は本来正しい判断だ。
だが、こうした野党側の支持のねじれ現象を起こしてしまった原因は、与党側のPTにある。本来は労働組合や軍事政権時代(1964~85年)の学生活動家たちを中心に、社会主義に近い立場で結成されていたPTは、現在も立場上は「貧しい国民の味方」を標榜し、支持を集めている。
だが、政権運営で有利に立とうと他党と連立政権を組んでいるうちに、かつて自分たちを痛めつけたはずの軍政支持政党の大物政治家のジョゼ・サルネイ元大統領率いる民主運動党(PMDB)やパウロ・マルフ元サンパウロ市長の進歩党(PP)と組むという矛盾を起こしている。
さらに言えば、通常、宗教を背景にした政党は左翼につきにくいはずなのに、現政権には共和党(PR)やブラジル共和党(PRB)といった福音派の政党が連立でPTと組んでいる。前述のPSCも、同性愛者差別で問題になっている党だが、エヴェラウド氏の出馬までPT支持だった。
一方、「保守派」の代表の様に称されるPSDBも、それは単に「富裕層の味方」のイメージが強いだけで、アメリカの共和党に代表される欧米の右派政党のような、「家族主義」や「キリスト教右派」「過度な愛国主義」のイメージがあるわけではない。
こうして見ると、今回の改革気運は、PTが政権についているうちに起こした腐敗と政治理念の欠如が招いた混乱に対する反旗が上がって起きた現象といえるようだ。
(記事提供/ニッケイ新聞、写真/Igo Estrela/Coligação Muda Brasil)
10月8日、ブラジリア、ジュセリーノ・クビシェッキ大統領記念館。同盟関係を確認するアエシオ・ネヴィス氏(民主社会党:PSDB、写真左)とエドゥアルド・ジョルジ氏(緑の党:PV、写真中)