工場の廃棄布で新しい洋服を作る、リオデジャネイロ発アップサイクルデザイン

2013年 08月 25日

gabrielamazepa_perfil

ファッションは単に流行を追いかける為のもではありません。毎日無意識的に選ぶ洋服は、その日一日のメッセージを伝えるツール、人となり、社会に対するオピニオンを訴えることができるツールです。

ブラジルのファッションシーンは、今まさに盛り上がりを見せていて、その存在感を世界中に見せつけているところ。本コラムでは、単にブラジルファッションの流行、徴候をご紹介するだけではなく、ファッションを通してブラジルをも変えて行きたいという強いパッションを抱く、意識の高いデザイナー、またファッション起業家をご紹介して、ファッションを通してブラジルの文化、社会を違った角度から見ていきたいと思います。

第1回目のインタビューは、デザイナーのGabriela Mazepa ガブリエラ・マゼパhttp://www.gabrielamazepa.com/です。

パラナ州クリチバ市出身で、現在、リオデジャネイロ在住の彼女は、フランスに4年、イギリスに1年滞在していたことがあり、スリランカでもプロジェクトを行うなど、国際経験豊かな経歴を持ちます。エシカル・ファッション(良識にかなって生産、流通されているファッション商品のこと)、アップサイクリング(廃物や使わなくなったものを、新しい素材やより良い製品に変換して価値を高めること)をテーマに、自身のブランドGabriela Mazepaにて、工業廃棄布・服を利用したコレクションを展開したり、使わなくなった服を新しい洋服にトランスフォーメーションさせるワークショップを行うなど、現在は精力的にブラジルで活動しています。

これまでの経験からブラジルファッションに関して感じること、また今後の展望・夢について伺いました。

●どのようにしてファッションに興味を持つようになったのですか?

小さな頃からアートに夢中な子でした。最初のファッションとのコンタクトは、私の母がファッションの縫製工場を営んでいたので、いつも母のそばで洋服に囲まれて遊んでいました。

その後、大学の選考を選ぶ際、当時クリチバはファッションというものが現在のように盛んではなかったので、その当時面白そうだった建築を選びました。また、小さい頃からずっとバレーダンスカンパニーで踊っていてきましたが、それも大切なインスピレーションです。

転機となったのは、大学3年生の頃、フランスへの文化交流に参加したことです。この一年で建築をフランスで学ぶ事になったのですが、そのコースはとても技術よりのもので、とても難しくて自分にあわないと思いました。そんな中、ある日本当に偶然、芸術コースのある大学に行ったのです。アール・デコという有名な大学です。その大学に転入しようと決め、コースを選ぶ中で、マテリアルを決めなければならなくて、セラミックやガラスなどがある中、布があったので、迷わず選び、そこでアートを専攻し始めました。

なので、私はファッション学部を卒業したのではなく、あくまでもテキスタイルアートを専攻したことになります。ファッションでは一度も大学に通ったことがないのです。その後、縫製やパターンメイキングなどは技術コースに入って個人的に学びました。卒業制作にはすでにアップサイクリングをテーマにしていて、人々が持っている着なくなった服などのストーリーなどを聞いていくものでした。それは今行っているワークショップにも続いて行くものです。

2006年当時、エシカルファッション(サステイナブルファッションとも言う)と呼ばれるものは、まだ始まったばかりで、パリでのEthical Fashion Show Paris(http://www.ethicalfashionshow.com/efs1/crbst_111.html)も始まったばかりでした。パリには4年いました。その間、この動きに大変影響を受けました。

●パリでファッショに触れる中で、インスパイアーされたデザイナーはいますか?

Isabelle Quéhéはエシカルファッションの先駆者かつ、Ethical Fashion Show Parisの創設者で、大変影響されました。また、Hussein Chalayan (http://chalayan.com/)はアーティスティックですし、ブラジルではJum Nakao (http://www.jumnakao.com.br/)。あとComme des Garçon (http://www.comme-des-garcons.com/)は大好きなブランドです。

●パリで見たフランスのファッションとブラジルのファッションを比べて、今のブラジルファッションをどのように思いますか? また違いは?

ブラジルにはまだ、イギリスや日本、フランスのように「ファッションの文化」が根付いていないと思います。というのも、ブラジルは植民地時代に、常に宗主国、つまりヨーロッパの流行を「コピー」し続けてきた経緯があります。もちろんそれは私たちの「もの」ではないですよね。

でも、それは悪い所もありますが、良い所もあります。このようにしてヨーロッパの「コピー」をしてきた中で、単に丸写しするだけでなく、自分たちの視点も必ず入っていて、年々、面白くなって来たと思います。ブラジルはファッションのアイデンティティを見つけ始めたところなんだと思います。

●それでは今日のブラジルファッションのどんなところに可能性やポテンシャルを感じますか?

そうですね。例えばブラジルはマニュアル(手工芸)に大変すぐれていると思います。とても良い出来だと思います。Ronaldo Fraga(http://www.ronaldofraga.com.br/espera/)の細部に至る手工芸を利用した作品や、Helen Rodel(http://www.helenrodel.com.br)のかぎ針編みも素晴らしいです。また、色使いに関してもブラジルはとても優れていると思います。色のミックスの仕方やプリントはTotem(http://www.totempraia.com.br/)が素晴らしい仕事をしています。カーニバルの衣装や見てみれば全ての色が使われている事が分かりますが、ブラジルのカラーはそれぞれがきちんと機能しています。

●あなたの働き方はコレクションをシーズン毎に発表するという従来のそれではありませんね。

そうです。私は縫製工場などで出た廃棄布や服などを譲り受け、それが材料になっているので、シーズン発表時期はそれによるんです。または、古着や思い出のつまった服をゆずり受け、1ピース毎作っては発表するという形もとっています。

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●スリランカへは、どのような経緯で行かれたのですか?

私の人生で起こった中で一番素敵な出来事でした。合計で4ヶ月弱行きました。2009年にBritish Council BrasilのInternational Young Fashion Entrepreneur Award (国際青年ファッション起業家アワード)で入賞し、イギリスへ行く事になりました。12カ国の若者が集まり、交流するプログラムで、そのうちの一人がスリランカ出身のLindaという女性で、スリランカで初めてのファッションスクール(http://www.raffles.edu.lk/)を立ち上げた人です。

この学校ではまだ教師も足りない状況で、私は廃棄布、服のアップサイクリングについて講義を頼まれました。スリランカは布製造や縫製工場が多い事でも有名ですからね。また、意識もインドや中国に比べ、大変進んでいます。なぜならそれが諸外国と差を付けるポイントだと考えているからです。Garment without guilt(http://gwg.garmentswithoutguilt.com)というプロジェクトも起こっています。そこで、英語で授業をしていました。

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また、スリランカの縫製工場での廃棄服を燃やすに関してもお金がかかるため、その服を再利用できないかという提案をもらい、その服を利用してコレクションを発表することになりました。

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そこでイギリスに1年住み、このプロジェクトを続けていましたが、ブラジルの方でも「エシカルファッション」が盛んになって来たと聞いたので、いよいよ帰国することを決めました。ブラジルはこの分野で高い潜在能力を持っていると思ったからです。

●ブラジルの潜在能力とは具体的に?

まず、ブラジル人は大変クリエイティブだということ。また様々な文化、人種が共存しています。ファベーラに見られる建築は大変興味深いし、また空き缶アートなども自然発生してしまいます。こういった「再利用の文化」がブラジルにはすでに根付いているのです。

ブラジルは諸外国に比べ、エシカルファッションやサステイナブルファッションに非常にアンテナをはっていて、その発展は目を見張るものがあります。ブラジル独特の、「火がついたら早い」という特徴が影響しているのかもしれません。北東部に見られる手工芸の、豊な文化、豊な原料、この3つが潜在能力でしょう。ただし、消費者の意識はまだまだ低いとは思います。

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●現在進行形のプロジェクトや今後のプロジェクトまたは夢を教えてください。

今、大変重要な時期で、これまでやって来た事を整理し、形にしているところなんです。

ひとつは工場の廃棄服、布の再利用によるコレクション。すでに大きなブランドがそれらを提供してくれ始めています。ふたつ目は、人々が使わなくなった服のトランスフォーメーションのワークショップです。これは教育的な意味ももっているので、とても興奮しています。夢は、すでに実はかなっているかもしれません。私は特に人々面と向かってのコミュニケーションがすきなので、ワークショップをもっとしていきたいなと思っています。とても幸せです。

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●最後に。あなたにとってファッションとは何ですか?

ファッションには2種類があると思っています。ひとつは、流行を追ったもの。それに関して、私はほとんど興味がないんです。もうひとつは、朝起きて洋服を身にまとう際に、身に着けるもので何を伝えたいのかを、考えるような行動。

つまり、ファッションはメッセージだと思うんです。また、建築と比べると、ファッションは身近に完成させることのできるアートなのだと思います。マニフェストをするツールだと思っているんです。そして、まだ十分に利用されていないツールだとも思います。もっと利用してメッセージを発信していきたいと思います。また、人々にとって、さらにアクセスし易いもの、つまり消費者にとっても制作者にとっても公平な価格にしていきたいとも思っています。

著者紹介

平本明日美 Asumi Hiramoto

平本明日美 Asumi Hiramoto
リオデジャネイロ市在住ファッションデザイナー、プランナー。大学卒業後、サンパウロ市に1年滞在し、ブラジル文化の豊かさ、デザインのポテンシャルの高さに魅了される。帰国後、広告営業、企画の仕事に携わった他、2008年外務省日伯交流年事務局にて交流年のPR、広報に関わる。

2010年再度ブラジルに渡り、リオデジャネイロにて、幼い頃からの夢であったファッションの道を志すことに。ファッション技術コースを修了し、2012年、サステイナブル・ファッションブランドにてインターンを行う。現在、パターンの技術コースに通いながら、「教育とファッション」をテーマに同市で活動中。「A Boa Vida」(伊勢丹三越ホールディングス)、「A Boa Vida 2015」(伊勢丹三越ホールディングス ※サイトのみ)にも寄稿。
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