最高裁、連邦政府の海外投資収益からの徴税額を一部凍結

2016年 11月 14日

ホーザ・ウェベール判事 ブラジル

ブラジルは多様性に富んだ国だが、貧富の差が大きいことでも知られている。一日の食事もままならない人口が全国民の5分の1ともいわれる一方で、HSBCスイス支店の預金者リストやパナマ文書にはブラジル人超富裕層の名前が多数上がっている。

ブラジルは他の新興国と同様、外国為替統制を行っているため、海外投資には一定の制約がある。ブラジル人が海外で資産運用を行う際、ブラジル国内銀行を通じで外貨口座を開き、そこを経由して投資払い込みや分配金を受領することとなっている。

しかしながら国の為替管理をすり抜けてスイスやパナマに直接運用資産を持つ富裕層もいる。

ブラジル国内銀行を通しているか否かにかかわらず海外資産の運用益を申告しない富裕層も多いようだが、近年ブラジル連邦政府はこのうちブラジル向けに送金されてきた運用益に対しては所得税と罰金を課す体制を強化している。

連邦政府の徴税努力が実を結びつつある中、TVグローボやエスタード・ヂ・サンパウロなど現地メディアが11月12日、罰金部分をめぐって連邦と州のせめぎあいが起こっていると伝えている。

ブラジル人の海外資産運用益のうち、ブラジル国内に送金されてきた額に対して連邦政府は所得税と罰金、合わせて468億レアル(約1兆5440億円)を課した。その分け前をめぐって、ブラジルの24州と連邦区がブラジル最高裁判所に上訴した。

連邦政府の徴収額のうち税額部分の21.5%、約40億レアル(約1320億円)が州向け交付金ファンドに拠出された。また、同税額部分の24.5%、約42億レアル(約1386億円)は市町村用ファンドに拠出され、市町村に交付される。

しかしながら、この経済危機で税収不足に苦しむ各州の主張が最高裁で認められた場合、連邦から州にわたる金額が倍増する。

連邦最高裁判所(STF)のホーザ・ウェベール判事は、連邦政府は24州の訴えが結審するまで分配金からの徴収額の一部を法務省口座に供託すべき、とした。

訴えを起こしているのはマラニョン、ピアウイー、セアラー、リオ・グランヂ・ド・ノルチ、パライーバ、ペルナンブーコ、アラゴアス、セルジッピ、バイーア、アクリ、ホライマ、パラー、アマゾナス、アマパー、トカンチンス、ゴイアス、マット・グロッソ、マット・グロッソ・ド・スウ、連邦区、ミナスジェライス、エスピリトサント、リオ・デ・ジャネイロ、サンタ・カタリーナ、リオ・グランヂ・ド・スウの各州・地区。また上訴が確定していないのがパラナ―州だ。ブラジル全土で今のところ上訴していないのはサンパウロとホンドニアの2州のみ。

海外からの投資還元額に対する課税法案はいったん議会で可決されたが、ジウマ・ルセフ前大統領は罰金部分を州への配分対象とすることは認めなかった

結審の日はまだ決まっていない。政府は州への当初予定を超えた財源移譲には反対している。州に対する支援はしたいものの、公金の配分調整に影響が出るようなことはできないという。

テメル大統領は11日、分配金への課税額の一部は市町村レベルにまで案分されるだろうと述べた。各市町村はこの配分額を年末の費用支払いにも充てることができる。

「金額的には年末の費用をカバーするもので、いかなる市町村でも同じ。例外はない。13か月目の給与に充てるかどうかは市町村次第」(テメル大統領)

(文/原田 侑、写真/Dorivan Marinho/SCO/STF)
写真は連邦最高裁判所(STF)のホーザ・ウェベール判事、2016年3月1日、ブラジリア