コーヒーをテーマにした、ジョタ・ボルジェス&パブロ・ボルジェスの新作版画展示中

2024年 01月 8日

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駐日ブラジル大使館で展示されたボルジェス家の版画。現在、カフェ ヴィヴモン ディモンシュで展示中(撮影/麻生雅人)

ブラジルを代表する木版画作家ファミリー、ボルジェス家の新作版画作品が、鎌倉市にある「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」で展示販売中だ。

今回展示されている作品を手掛けたのは、ブラジル北東部ペルナンブッコ州ベゼーホスを拠点に活動するボルジェス家の長であるジョタ・ボルジェスことジョゼー・フランシスコ・ボルジェスと、その後継者パブロ・ボルジェスの親子。

ペルナンブッコ州ベゼーホスを拠点に活動するジョタ・ボルジェスことジョゼー・フランシスコ・ボルジェスは、ブラジルを代表する木版画作家・コルデウ文学冊子(リテラトゥーラ・ジ・コルデウ)作家のひとりだ。その息子やいとこたち、ジョタ・ミゲウ、マナサス・ボルジェス、イヴァン・マルシェッチ・ボルジェス、ジョエウ・ボルジェス、ネナ・ボルジェス、パブロ・ボルジェス、バカロ・ボルジェスらも版画家として活動している。

主に北東部に伝わるコルデウ文学(リテラトゥーラ・ジ・コルデウ)は、時事的な話題や英雄譚、幻想譚などを詠んだ詩が綴られた小冊子形態の大衆文学。源流はヨーロッパで、中世の吟遊詩人が、自作の詩を売り歩くために印刷した1枚刷りや冊子といわれている。

広くヨーロッパ各地で親しまれていたこの小冊子は、国によって呼び方も異なる。イギリスでは「Chapbook」や「Broadside」、 「Broadsheet」、フランスでは「literatura de colportage(行商文学)」や「Bibliothèque Bleue(青の図書)」、スペインでは「Pliego Suelto(ラフなシート)」や「literatura de Cordel(リテラトゥーラ・ジ・コルデウ/紐文学)」などと呼ばれ、ポルトガルとブラジルでは「literatura de Cordel(リテラトゥーラ・ジ・コルデウ/紐文学)」と呼ばれた。

ポルトガルでリテラトゥーラ・ジ・コルデウ(紐文学)と呼ばれていた理由は、吟遊詩人や販売人が、肩や首からかけた紐に冊子を吊るして売り歩いたこことに由来しているという説や、露店市などで紐に続されて売られていたため、など諸説がある。

ブラジルへはポルトガル人が伝えたが、ヨーロッパでは産業革命による印刷技術の普及とともに次第に姿を消していったといわれているが、ブラジルでは作り続けられ、北東部を中心に独自に発展した。1950年代まで盛んに作られていたコルデウは1960年代に一度は廃れかけた(他のメディアの普及や、南東部への人口移動などが原因と考えられている)が、新しい世代の作家も現われ今も主に北東部の伝統芸能として根付いている。

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ジョタ・ボルジェス。ペルナンブッコ州ベゼーホス市のアトリエ兼版画ミュージアムにて(撮影/麻生雅人)

1960年代以降に登場して今も活躍する、ブラジルを代表する木版画家・コルデウ作家には、セアラー州ジョアゼイロ・ド・ノルチ市のアブラォン・バチスタ(1935年生まれ、初作は1968年)、バイーア州出身でサンパウロを拠点に活動するフランクリン・マシャード、セアラー州出身でリオデジャネイロを拠点に活動するゴンサーロ・フェヘイラ・ダ・シウヴァ(1937年生まれ、ブラジルコルデウ文学研究所創設者)、そしてペルナンブッコ州ベゼーホス市のジョタ・ボルジェス(1935年生まれ、初作は1965年)などがいる。

コルデウ文学は2018年に国立歴史美術遺産院(IPHAN)によってブラジルの無形文化遺産に指定されている。

さて。このコルデウ文学の冊子に欠かせないのが、表紙に掲載される木版画による図版だ。

リテラトゥーラ・ジ・コルデウでは、版画家と詩人がチームを組んで作られる分業体制の作品もあるが、版画と詩を共に手掛ける作家も少なくない(ジョタ・ボルジェスは、版画と詩を共に手掛ける作家のひとり)。

やがてブラジル北東部では、木版画そものももコルデウ文学とともに伝統芸能として定着して、この地方の象徴的な大衆アートとなった。そのため版画でも好まれている図版は、コルデウ文学の詩の題材になっていた地元の英雄や伝説的な人物たち(シセロ神父、盗賊ランピアォンとその恋人マリア・ボニータなど)や、北東部の人々やその暮らし、鳥や家畜、動物たちなど。ボルジェス一家が得意とするのも、こうした地元北東部に根差した絵柄だ。

今回、「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」展示販売されているのは、輸入代理店コロリーダスと「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」の別注による、コーヒーを題材にした新作のオリジナル限定作品だ。

「『カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ』では2019年に、はじめてボルジェス家の木版画展を開催しました。そのときに、私たちがカフェということもあり、植物や動物の作品の中にあった、『コーヒーの木』という作品の評判が高かったので、次回、コーヒーを題材にした作品展ができないか、コロリーダスのYasukoさんに打診したのが、すべてのはじまりでした」(「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」堀内隆志マスター)

直後に世界をCovid-19のパンデミックが襲い、新作の発注企画は延期となったが、以来、「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」では毎年、ボルジェス一家の木版画展を開催してきた。そして2023年、当初の発案から4年の時を経て、企画は動き出した。

しかし、ブラジルにおける主なコーヒーの生産地は、ミナスジェライス州やサンパウロ州など南東部。ボルジェス家が暮らす北東部では馴染みがうすいため、制作は素材の準備からはじまったという。

「せっかく制作してもらうのだから、リアルなコーヒーの姿を描いてもらいたいと考え、私たちがかねてからお付き合いのあるコーヒー豆の輸入会社、セラードコーヒーさんに協力いただき、苗や木、農園での作業風景の画像を提供いただき、それをボルジェスさんのアトリエに送って制作してもらいました」(同)

「版画を作ってくださったのが、今年(2023年)88歳になるジョタ・ボルジェスさんと、後継者のパブロ・ボルジェスさん。ジョタ・ボルジェスには18人子供がいて兄弟の何人かも独立して版画家として活動していますが、17番目のパブロが、ジョタ・ボルジェスのスタイルを一番受け継いでいることから、ジョタ・ボルジェスの後継者に選ばれています」(コロリーダス代表Yasuko氏)

ブラジル各地のアルテザナートを輸入しているコロリーダスでは、ボルジェス家の版画を2016年から扱っている。2019年にはパブロ・ボルジェスを日本に招聘して、木版画制作の実演や講演も行っている。

今回の版画制作にあたり、コーヒーの栽培から収穫までを版画にするにあたり、参考画像と、作品につけるポルトガル語の表題で、セラード珈琲の山口カルロス彰男社長が全面協力を行った。1枚1枚の作品に、コーヒーの物語が詰まっている。

「たとえば『Flor de Café(コーヒーの花)』は、豆が実を結ぶ前にコーヒーの木が咲かせる花です。ブラジルは12月から2月頃が夏で、7月頃が冬になります。8月から9月に春に向けて雨が降り出す季節に、コーヒーは花を咲かせます。コーヒーの花の命は4日くらいで、開花したころは真っ白ですがだんだん黄色くなっていきます。ジャスミンのように、とても香りのいい花です」(セラード珈琲 山口カルロス彰男社長)

「Colhedor de Café(コーヒーの収穫人)」、「Colhedora de Café(コーヒーの女性収穫人)」、「A Colheita(収穫)」では、収穫のさまざまな様子が描かれている。

「広い平地にコーヒー農場があるところでは機械化が進んでいますが、山地が多いブラジルの農場では今でも手作業に頼っています。収穫したコーヒー豆を、頭の上にのせて運ぶ光景も、他ではあまり見ない光景かもしれません。1日に10袋も収穫できればすごい方です」(セラード珈琲 山口カルロス彰男社長)

「Cafeteria」と題された作品は「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」が、「Barista」と題された作品は、堀内マスターがモデルになっている。

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堀内マスターとカフェ・ヴィヴモン・ディモンシュを描いた作品(撮影/麻生雅人)

「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」での展示は1月までを予定。またお店では、今回の展示を記念して作られたブレンド「ボルジェス」も楽しめる。甘みを感じる中深煎りコーヒーで、ビスケットのような香りと長く続く甘い余韻が特徴とのこと。

café vivement dimanche|カフェ ヴィヴモン ディモンシュ(神奈川県鎌倉市小町2丁目1−5 櫻井ビル 1階)
https://www.instagram.com/cvdimanche/

coloridas 鎌倉店( 神奈川県鎌倉市御成町8−7)
https://www.instagram.com/cvdimanche/

(文/麻生雅人)