ルーラ大統領による、国連総会一般討論演説の開会演説・全文

2025年 09月 24日

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ニューヨーク(NY)、9月23日。ルイス・イナーシオ・ルーラ・ダ・シウヴァ・ブラジル連邦共和国大統領、国際連合総会第80回通常会期の一般討論開幕にて(写真/Ricardo Stuckert/PR)

今週火曜日(9月23日)、ルイス・イナーシオ・ルーラ・ダ・シウヴァ大統領は、アメリカ合衆国ニューヨークで開催された国際連合(国連)総会の(一般討論演説)開会時に演説を行った。2025年に第80回を迎えるこの年次イベントで、慣例により、ブラジルは最初に演壇に立つ国となっている。

演説の中でブラジル連邦共和国大統領は、アメリカ合衆国によるブラジルの経済および司法制度への制裁、ガザにおけるジェノサイド、気候変動、巨大IT企業の規制、民主主義、そしてラテンアメリカについてなど、国内外の諸問題について言及した。

演説のすべての内容は以下。

アンナレーナ・ベアボック国連総会議長閣下、
アントニオ・グテーレス国連事務総長閣下、
ここに集われた各国の元首、政府代表、そして加盟国の親愛なる皆様

本来であれば、これは国際連合を祝福するべき瞬間であるはずでした
戦争の終結を受けて創設された国連は、平和と繁栄への人類の最も崇高な願いを象徴する存在です

しかし今日、サンフランシスコで、創設者たちの着想の源となった理想は、国連の歴史の中でかつてないほどの脅威にさらされています

多国間主義は、新たな岐路に立たされています

この組織の権威は、いま、揺らいでいます

私たちは、力による支配に対して幾度となく行われてきた黙認によって形作られていった国際的な秩序の崩壊の肥大化を目の当たりにしています。

主権への侵害、恣意的な制裁、そして一方的な介入が、もはや例外ではなく常態化しつつあります

多国間主義の危機と民主主義の弱体化との間には、明白な相関関係があります

私たちが恣意的な言動に対して沈黙するとき、権威主義は強大化するのです

国際社会が、平和・主権・法を擁護する意思を揺るがせてしまったとき、その結果は悲劇的なものとなります

世界各地で、反民主主義の勢力が制度を支配下に置こうとして、自由を抑圧しようとしています

彼らは暴力を礼賛し、思考停止を称揚し、物理的・デジタルの両面で民兵のように振る舞い、報道の存在を脅かしています

前例のない攻撃にさらされながらも、ブラジルはこれに抗い、民主主義を守る道を選びました。この民主主義は、二十年にわたる独裁政権の後、四十年前に国民の手によって再び勝ち取られたものです

わが国の制度と経済に対する一方的かつ恣意的な措置には、いかなる正当性も存在しません

司法権の独立性に対する攻撃は、断じて容認できません

この内政干渉は、かつての覇権を忘れられず、(ブラジルへの攻撃者への)従属的な極右勢力の支援を受けています

偽りの愛国者たちは、ブラジルに対する攻撃的な活動を企て、公然と実行しています

刑罰の免除がまかり通ると民主主義の修復はできません

ほんの数日前、我が国の525年の歴史上初めて、民主的法治国家に対する攻撃の罪で、元国家元首が有罪判決を受けました

彼は、綿密な司法手続きのもとで捜査され、起訴され、裁かれ、自らの行為に対する責任を問われました

彼には十分な弁護権が保障されました──それは、独裁体制がその犠牲者に与えることのない権利です

世界中が見守る中で、ブラジルはすべての独裁者を目指す者たちとその支持者に対して、明確なメッセージを発しました──我々の民主主義と主権は、いかなる取引の対象にもなり得ない、と

我々は、いかなる形の干渉や支配からも自由な、独立した国家として、そして自由な国民として歩んでゆきます

堅固な民主主義は、選挙という儀式行為だけで得られるものではありません

民主主義の活力は、格差の是正と、最も基本的な権利──食料、安全、労働、住居、教育、そして医療──の保障を前提としています

女性が男性よりも低い賃金しか得られず、パートナーや家族の手によって命を奪われるなどというときは、民主主義は機能していないときです

世界の問題の責任を移民に押しつけ、門を閉ざすとき、民主主義はその価値を失います

貧困は、制度破壊的な過激主義と同様に、民主主義の敵です

だからこそ、今年、2025年にブラジルが再び「飢餓マップ」から脱したという正式な認定をFAO(国連食糧農業機関)から、私たちは誇らしく受け取りました

しかし世界には、いまだに6億7千万の人々が飢餓に苦しみ、約23億人が食料不安に直面しています

すべての人が勝者となれる唯一の戦い──それは、飢餓と貧困に立ち向かう戦いです

この戦いこそが、我々がG20で提案した「(飢餓と貧困に対する)グローバル・アライアンス」の目的であり、すでに103か国の支持を得ています

国際社会は、自らの優先課題を見直す必要があります

  • 戦争への支出を削減し、開発支援を拡充すること
  • 特にアフリカ諸国を中心とした最貧国の対外債務の負担を軽減すること
  • 超富裕層が労働者よりも多くの税を支払うよう、グローバルな最低課税基準を定めること

民主主義は、家族と子どもたちを守る能力によっても評価されます

デジタル・プラットフォームは、これまで想像もしなかった形で私たちを繋げる可能性をもたらしました

しかし、それらは不寛容、女性蔑視、外国人排斥、そして偽情報の拡散の手段としても利用されてきました

インターネットは「無法地帯」であってはなりません。最も脆弱な立場にある人々を守ることは、公共権力の責務です

規制は、表現の自由を制限することではありません。現実世界で違法とされていることを、デジタル空間でも同様に扱うことを意味しています

規制への攻撃は、不正な利害を覆い隠し、詐欺、人身売買、児童虐待、そして民主主義への攻撃といった犯罪に居場所を与えるものです

ブラジル議会はこの問題に迅速かつ的確に取り組みました

先週、私は誇りをもって、児童・青少年のデジタル領域における保護に関して、世界でも最先端の法律のひとつを公布しました

また我々は、デジタル市場における競争を促進し、持続可能なデータセンターの設置を奨励するための法案を、連邦議会に提出しました

人工知能のリスクを緩和するために、昨年この場で承認された「グローバル・デジタル協定」に沿った、多国間ガバナンスの構築に取り組んでいます

皆様、
ラテンアメリカおよびカリブ地域では、現在、分断と不安定化が進行しています

この地域を平和の地帯として維持することが、我々の最優先課題です

我々の大陸(南米大陸)は、大量破壊兵器のない地帯であり、民族的・宗教的な紛争もありません

犯罪とテロリズムを同一視する傾向には、深い懸念を抱かざるを得ません

麻薬取引と闘う最も効果的な方法は、資金洗浄の取り締まりと武器取引の制限に向けた協力体制の構築です

武力紛争に該当しない状況で致死的な武力を行使することは、裁判を行わずに人を処刑することと同義です

また、地球上の別の地域では、介入によって、回避しようとした被害をむしろ上回る損害がもたらされ、人道的に深刻な被害を被ってきました

ベネズエラにおいて、対話の道が閉ざされるべきではありません

ハイチには、暴力のない未来を享受する権利があります

そして、キューバがテロ支援国家として名指しされることは、到底容認できません

“アフリカ・イニシアティブ”と、中国・ブラジルが創設した「平和のための友好国グループ」は、対話の促進に貢献し得る枠組みです

そしてパレスチナの状況ほど、違法かつ過剰な武力行使の象徴的な事例は他にありません

ハマスによるテロ攻撃は、いかなる観点からも擁護できません

しかし、ガザで現在進行中のジェノサイドを正当化できるものは、何ひとつ──絶対に──存在しません

そこでは、瓦礫の山の下に、何万人もの罪なき女性と子どもたちが埋もれています

そこにはまた、国際人道法と、西洋の倫理的な優越性などという神話も葬られています

この虐殺は、それを防ぐことができた者たちが加担しなければ起こり得なかったのです

ガザでは、飢餓が戦争の手段として利用され、住民の強制移動が罰せられることなく行われています

この集団的な懲罰に対し、イスラエル国内外で反対するユダヤ人たちに、私は深い敬意を表します

パレスチナの人々は、消滅の危機に瀕しています

彼らが生き延びるためには、独立した国家として、国際社会に統合されることが不可欠です

この解決策は、国連加盟国150か国以上が支持しており、昨日この同じ議場で再確認されました──しかし、たったひとつの拒否権によって阻まれています

この歴史的な瞬間に、パレスチナ代表席にマフムード・アッバース大統領が着席することを開催国が妨げたことは、極めて遺憾です

この紛争がレバノン、シリア、イラン、カタールへと拡大することで、前例のない軍備拡張が促進されています

議長閣下、
爆弾や核兵器では、気候危機から我々を守ることはできません
2024年は、観測史上最も暑い年となりました

ベレン市で開催されるCOP30は、「真のCOP」となるでしょう

それは、世界の指導者たちが、地球に対する自らの約束の真剣さを証明する時です

各国が提出する国別貢献(NDCs)の全体像が見えなければ、我々は目隠しをしたまま、奈落へと歩みを進めることになります

ブラジルは、温室効果ガスの全種類と経済の全セクターを対象に、排出量を59〜67%削減することを約束しました

開発途上国は気候変動に直面しながら、他のいろいろな課題とも同時に闘っています

その一方で先進国は、200年にわたる排出の代償によって得られた生活水準を享受しています

より高い目標と、資源・技術へのより広いアクセスを求めることは、慈善の問題ではなく、正義の問題です

エネルギー転換に不可欠な重要鉱物をめぐる争奪戦が、過去数世紀を特徴づけた略奪的な論理を再現してはなりません

ベレン市で世界は、アマゾンの現実を目の当たりにすることになるでしょう

ブラジルは過去2年間で、同地域の森林破壊を半減させました

それを根絶させるためには、数百万人の住民に対して、尊厳ある生活条件を保障することが不可欠です

持続可能な開発を促進することこそが、ブラジルが創設を目指す「熱帯雨林永久保護基金」の目的です──森林を維持している国々に報酬を与える仕組みです

今こそ、交渉の段階から実施の段階へと移行すべき時です

気候条約によって創設された制度は、世界に多くの恩恵をもたらしてきました

気候変動との闘いを、国連の中心に据えることが不可欠です──それにふさわしい注目と制度的な重みを与えるために

国連総会に付属する、強い権限と正統性を備えた監視機関があれば、気候行動に制度的一貫性がもたらされるでしょう

これは、より包括的な国連改革への重要な一歩であり、安全保障理事会の両カテゴリー(常任・非常任)における拡大も含まれるべきです

多国間貿易制度ほど、後退してしまった分野は他にありません

一方的な措置は、「最恵国待遇」などの基本原則を形骸化させています

それは、バリューチェーンを混乱させ、世界経済を高騰と停滞の悪循環へと陥れています

現代的かつ柔軟な基盤の上に、WTOを再建することが急務です

皆様、
今年、世界は、ウルグアイのペペ・ムヒカ元大統領と、フランシスコ・ローマ教皇という二人の卓越した人物を失いました

両者は、誰よりも最良の人間尊重の価値を体現していました

彼らの人生は、国連の80年の歩みと深く絡み合っています

もし彼らが今も私たちと共にあったなら、きっとこの壇上からこう語ったことでしょう

  • 権威主義、環境破壊、そして不平等は、避けられない運命ではないと
  • 唯一敗北するのは、腕を組んで諦める者たちだと
  • 恐怖を利用し、憎しみを貨幣化する偽預言者と寡頭勢力には、打ち勝つことができると
  • 未来は日々の選択によって形づくられるものであり、それを変えるには行動する勇気が必要だと

ブラジルが思い描く未来には、イデオロギー的な対立や勢力圏の再来に居場所はありません

対立は、避けられないものではありません

私たちには、国際秩序を「ゼロサムゲーム」とは捉えない、明確なビジョンを持つ指導者が必要なのです

21世紀は、ますます多極化する時代となるでしょう

その平和を維持するためには、多国間主義を手放してはなりません

ブラジルは、欧州連合、アフリカ連合、ASEAN、CELAC、BRICS、そしてG20に対して、ますます重要な役割を認めています

グローバル・サウスの声は、聞かれなければなりません

今日の国連は、創設時の51か国のほぼ4倍の加盟国を擁しています

我々の歴史的使命は、国連を再び希望の担い手とし、平等、平和、持続可能な開発、多様性、そして寛容の推進者とすることです

神さまのご加護が、すべての人々にありますように

ご清聴をありがとうございました

(記事提供/Agência Brasil、構成/麻生雅人)