【コラム】よろこびの音楽 パゴーヂ

2018年 08月 5日

パゴーヂ

今回はわたしがサンバを歌うようになったきっかけや、どうしてサンバを唄おうと思ったかについてお話をしようと思う。

いろいろな要因が複雑に絡み合って、最終的に一つの道になったと思っている。だが一番の理由は、何度かリオのパゴーヂに通ううちに、こんな素敵な文化を日本の人に少しでも知ってもらいたいな、と思ったからかもしれない。

気軽なパーティのようで、みんなが参加できてみんなで大合唱できる、大合唱して踊って…わたしがリオのパゴーヂで目の当たりにしたのは、みんなのとびきりのきらきら輝いた笑顔と、悩みやいやなことは全部忘れてしまいそうな、強烈なエネルギーだった。よろこびの音楽に見えた。

パゴーヂ

ミュージシャンもほんとうにみんな素晴らしかった。ミュージシャンはいろんな人が唄うパゴーヂの曲のキーを原曲から変え、唄う人のキーに合わせて完璧に演奏してくれる。

ここで見ることのできる景色を、日本にどうしても持って帰りたいと思った。これを書いているいま、日本にあの景色を持って帰り、微力ながら紹介することができて、実は少しホッとしている。

日本に紹介したくて始めたこととはいえ、ブラジル生まれではないわたしがサンバを歌うことを、わたしのブラジル人の友達はいつだって、とても喜んでくれる。友達を喜ばせたい、友達の喜んだ顔が見たいというのも理由かもしれない。

 

 

わたしがパゴーヂでサンバを唄おうと思ったもうひとつの要因は、ブラジルで生まれた音楽ならばブラジルでやってみたかったという点もある。この要因は実は結構大きい。

大きいけれどハードルも高い。しかしなんでも本場で体験してみたいと思うのは、わたしの昔からの性分もあると思う。パゴーヂは曲もみんなが知っている歌い継がれている曲ばかりだし、みんなで歌い楽しむ参加型の音楽でもあるためブラジルでできる可能性は全くないとは思わなかった。

リオで歌う機会を得たときに、一番心配していたことは、お客さんがみんな黙ってしまったらどうしよう、ということだった。幸い、そのようなことが一度もなく本当によかったと振り返っている。決してポルトガル語も歌も上手いといえない、いきなりステージに現れた日本人を受け入れてくれ、さらには一緒に歌ってくれたブラジル人のみんなにはとても感謝している。Muito Obrigada(どうもありがとう)。ステージを降りたあと歌聞いてたよ、とかよかったよ、などと声を掛けてもらったり、一緒に写真を撮ろうよと言ってもらえたりしたことの嬉しさを忘れることができない。

こうして、よろこびの音楽、パゴーヂの景色を持ち帰るにはどうしたらよいか試行錯誤する日々が始まった。

ところで、自分が唄うことになったきっかけについて話すなら、アニメ「攻殻機動隊」「STAND ALONE COMPLEX」第5話の草薙素子のセリフ「そうしろと囁くのよ、私のゴーストが」がとてもしっくりくる(笑)。 つまり、わたしにもわたしのゴーストが「歌を歌え」と囁いた、ということだ。最初はゴーストの声など信じられないと思っていたが、次第に囁きは無視のできないものになり、Eu sou japonesa do Japão (わたしは日本から来た日本人です)という言葉をネタのようにブラジルで繰り返し、ついにはリオのパゴーヂのステージにまで立ってしまった。

とはいえ、すべての行動は思いつきだけでやっているわけではない。わたしには、どうしても伝えたいことがあったし、伝えようとする情熱があった。この情熱を傾けることを、わたしは、パゴーヂに見出したのだった。

よろこびの音楽に。

(文・写真下提供/Viviane Yoshimi、写真上/Anna Galazans/Samba do Nem)

著者紹介

ヴィヴィアーニ・ヨシミ Viviane Yoshimi

ヴィヴィアーニ・ヨシミ Viviane Yoshimi
ブラジル音楽をひととおり通り、いまでもいろんなジャンルのブラジル音楽を聴き続ける、ブラジル音楽愛好家のなかのラフレシア。リスナーから歌手になり、2018年春に本場リオ・デ・ジャネイロへPagode修業の旅に出る。リオでは地元でも屈指の老舗Renacemça club,Pagode da Tia Docaを含む、全5箇所をまわりハードすぎる武者修行を終え、いまもトレーニング中。平行してオリジナル曲も絶賛作成中。

Instagram@vivianeyoshimi
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