Entrevista ホジェル・メロ
2014年 07月 8日既存のカテゴライズや既存の概念に囚われてしまうあまり、モノごとの本質や個性を見逃してしまうという危惧は、「色」についてだけ存在しているわけではない。ホジェルさんは、ありとあらゆるカテゴライズに疑問を抱く。
「ブラジルの各地方では、ユニークで個性的なアルテザナート(民芸アート)に出会うことができます。その土地の歴史や環境を背景に生まれたものも少なくありません。ただし、私がリスペクトして、インスピレーションを得るのは、あくまで個々の作家や個々の作品であり、名前があるものです」
例えば、ペルナンブッコ州のカルアルーで作られたメストリ・ヴィタリーノが作った粘土人形であったり、パラナ州クリチーバでラウレンチーノが作った風見鶏人形など。
「だから、アルテザナート(民芸アート)やフォルクローレ(民間伝承)には興味もあるし影響も受けています。だけど、アルテザナート、フォルクローレというまとめて言う呼び方自体は好きではありません。個々の作家の名前、個々の芸能の個性を隠してしまうからです。アーティストひとりひとりに歴史があり、個々の作品や芸能にそれぞれ異なるスタイルやメッセージがあり、作り手の心や気持ちが込められています。ひとつとして同じものなどありません」
こうした“総称”の概念が、個々のアーティストやアートに対して敬意を払うことを忘れさせがちだと、ホジェルさんは危惧する。
「アルテザナート(民芸アート)というとブラジルの北東部のもの、という印象が持たれていますが、もちろん北東部だけのものではありません。同じ粘土人形でも、作家によって人形の表情は全く違います。コンテンポラリーアートの世界と同じように、ヴィタリーノもラウレンチーノも、ひとりひとりの作家の個性を評価して接するべきだと思います」
ブラジルではポルトガル王朝の文化など、王室の文化の伝統は重んじられている反面、市井の人々の歴史や伝統は注目されることはそう多くはない面もあるという。
「日本では、その土地ごとにご先祖様の時代から伝わるアートや伝統があり、重んじられていますね。ブラジルにもそれはあるのに、多くの人が“ブラジルは若い国だ”といって伝統に目が向けられない面があるように思います。私はそうは思いません。ボリビアでは何千年も昔の文化がきちんと評価されていますよね。ブラジルに限らず南米全般にいえるかもしれませんが、自分たち自身がもっと自分たちの文化や歴史を知り、国民たちがそれらに価値を与えるべきだと思います」(次ページにつづく)
(写真・文/麻生雅人)
写真は、駐日ブラジル大使館で行われた国際アンデルセン賞の受賞記者会見。同賞作家賞を受賞した上橋菜穂子さん(右)と共に