大型贈収賄事件に揺れる中国とブラジル、似て非なる状況とは!?

2015年 06月 17日

中国とブラジル

かつては一世を風靡したBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国の造語で、のちに南アフリカを加えてBRICSと称される)。そのBRICsの中で、実は中国とブラジルは今、一見すると似た状況にある。

両国とも国の中枢を担ってきた政治家と国営企業を舞台にした大型贈収賄事件が発生し、今まではなかったことだが、大物政治家が摘発・逮捕されている。

いずれも裏で動いたお金が巨額であり、それを受け取った幹部は広範囲に多数存在している。ただし、それを暴いたのは、中国が習国家主席の強権であるのに対し、ブラジルは地方検察だという違いがある。

民主主義のブラジルはこれから事実解明まで、長いプロセスを経て、少しずつ進んでいくため、そのスピードの遅さはブラジル経済の体力を少しずつ奪っていく。現与党の看板政策である低所得者へのバラマキ策も、政府の財政難のため支給が遅れており、継続に暗雲が立ち込めている。

それに対して一党独裁の中国は、すぐに刑も確定し、次のターゲットへと移っていっており、経済には大きく影響しない。

さらに近年、産業基盤の違いが浮き彫りとなっている。

中国は1992年の鄧小平の南巡講話から、本格的近代化へ進んでいった一方、ハイパーインフレに苦しんだブラジルも同年前後から国営企業の民営化と外資への市場開放に舵を切った。

ここから両国の怒濤の経済成長が始まるわけだが、その時に中国はまだどの産業も育っていない状態だったので、世界中からあらゆる産業、企業を誘致して、どん欲に技術やノウハウを吸収するとともに、自国メーカーも立ち上がっていった。

それに対してブラジルは、1950年代、1970年代にブラジルの奇跡と呼ばれた成長期があり、ここで既得権益を握った層などが政治家などともつながり、関税を上げたり、規制をつくったりして、国内産業を保護する方向へいってしまった。

一次産業は部分的に民営化しているが、元国営・半国営の大手企業が一次産業を掌握。三次産業、消費材分野は次々と外資を誘致して市場競争を促したが、二次産業である製造業はそのためにイノベーションが起こらず停滞した。

結局2000年代以降に、体力をつけた中国や韓国の企業が技術の進んだ機械や装置を次々とブラジルに輸出され、関税を払ってもまだブラジル企業の製品よりも安かったため、ブラジル製造業は壊滅的打撃を受けた。

対外的にみればブラジルは、資源高騰で莫大な恩恵を受けた一次産業と、所得の向上と外資参入による国内消費の急拡大が経済を押し上げ、GDP(国内総生産)で世界第6位まで登りつめたが、13年頃から資源安と国内政治の混乱が始まり、15年は一気にマイナス成長へと落ち込んでしまった。

この10年で、消費材や工業製品でも稼げる体力をつけた中国と、製造業が空洞化したブラジルとの間には歴然とした差が出来てしまった。

両国の差を象徴するような出来事があった。

5月18日に企業家150人を伴ってブラジルを訪問した中国の李首相は、ブラジルから救世主のように迎えられ、大風呂敷を広げて帰っていった。5月19日付のブラジルの有力紙「エスタド・デ・サンパウロ」によると、水力発電所からの送電線工事、中西部と南北鉄道を結ぶ鉄道敷設工事等々に総額530億ドルの投資を考えていると表明。緊縮財政で公共投資を大幅に削ってしまった今のブラジルを見越した中国側の見事な外交である。さらに、李首相がリオ―リマ(ペルー)間4700キロメートルの鉄道敷設構想をぶち上げたことは極め付きだった。

二国間の関係は深まるばかりだが、経済の体力差は開くばかりだ。

(文/輿石信男/クォンタム、記事提供/モーニングスター、写真/Clarice Castro/GERJ)
写真は2015年5月20日、ブラジル、リオデジャネイロ。地下鉄管理センターを訪ねた中国の李首相(中央)とリオデジャネイロ州のルイス・フェルナンド・ペザォン知事(民主運動党:PMDB、左)