ブラジル人の優しさを感じた瞬間
2015年 08月 25日ブラジル北東部(ノルデスチ)には、ひたすら何もないところをまっすぐに進むような道路が沢山あります。10分くらい対向車線に車が居ないなんてこともあります。
また、ノルデスチでは、舗装されていない道路は珍しくありません。週末にピアウイ州にあるユネスコの世界遺産、セラ(セーハ)・ダ・カピバラ国立公園に
車で行ってきたのですが、国立公園までの約100kmもまた、舗装されていない道でした。
信号、標識がないこのような道をひたすら車で走っていると、時々、ロバ、牛、ヤギ達に走行を阻まれます。
アスファルトで舗装されていない道は、まだマシです。たちが悪いのは、アスファルトで舗装された道に穴ぼこが空いた状態です。
道を敷設した時に、アスファルトをケチって薄く伸ばしたことで道路の耐久性が弱くなってしまっているうえに、過重積載のトラックが頻繁に走ることによって、あちこちに穴が開いてしまいます。
このような穴ぼこ道路を走るためには、一度に両方のタイヤが穴に落ちないように気を付けなければならないですし、ハンドルをしっかりと握っていないとコントロールを失ってしまうので、普通の道を走っている時よりもエネルギーの消耗が非常に激しいです。
トラックが通った後のわだちは、石が盛り上がっていて、滑りやすいんですよね。
長時間の運転で疲れていたためか、国立公園に向かう未舗装の道で、運転していた車がコントロールを失うという事態が発生しました。
車は対向車線まで大きくカーブを描いて横滑りし、道路脇の土が盛り上がっている場所でなんとか止まりました。
ケガもなく、車も普通に動いたのですが、車の前輪からカタカタと妙な音がします。パンクしたかと思って調べてみると、タイヤは無事だったのですがタイヤとホイールの間に小石が詰まってます。
まだ500キロくらい走らなければならないところ、一気に気分もへこんでしまいました。少し水を飲んで気を持ち直して、近くの町のタイヤ修理屋に駆け込みました。
ノルデスチではこういう事は日常茶飯事なので、どの町にもわかりやすい場所にタイヤ修理屋が必ず店を構えています。
店の奥に居たオヤジを呼んで、問題のタイヤを見てもらいました。
店のオヤジさんは、潤滑のために食器洗剤をタイヤに掛けて、タイヤの空気を抜くと、詰まっていた小石を手際良く抜いて、また空気を入れなおして空気圧のチェックまでしてくれました。職人の手際の良さは見ていて美しいものがあります。
オヤジさんは、他のタイヤの空気圧なども念のためチェックしてくれて、最後にグーサインで「もう、大丈夫。安心していいよ」と言ってくれました。
修理代はいくらか、と尋ねるとオヤジさんからは、「そんなの要らない」という驚くべき返答が返ってきました。
タイヤの空気を抜いて、小石を出しただけなのでお金を取るまでもない、ということなのかもしれないですが、そういうわけにも行きません。じゃあ、少ないけど、これで…と10レアル(約400円)を渡したら、気持ちよく受け取ってくれました。
さあ、タイヤも直ったし、行こうということで車を発進させると、またもや前輪がカタカタという音をたてたのでオヤジさんが、「ちょっと待て」と言って、車をチェックしてくれました。
音の原因は、タイヤではなくて、車が横滑りした時の衝撃で空調パイプが外れて、中のベルトコンベアに当たっていた音だったのです。
「お前、これ外れてるの気が付かなかったのか?」
と笑いながら空調パイプを取り出すと、フィルターをきれいに掃除してエンジン周りをざっとチェックしてくれました。
「大丈夫、他に問題はないみたいだ。空調パイプはダメになってるけど走行には影響ないから、またあとで取り換えればいいよ」と言ってくれました。
最後は、車がバックして道路に戻るのをアシストしてくれ、手を振って送り出してくれました。
なんて、いいオヤジさんなんだろう。
アクシデントで心が少し折れていた時だっただけにオヤジさんの優しさは心に沁みました。タイヤ修理屋のオヤジさんの生活は慎ましいものですが、たぶん、平均的な日本人よりもこのタイヤ修理屋のオヤジさんの方が、幸福度が高いんだろうなあと勝手な想像をしてしまいました。
こういう見返りを求めない鷹揚なブラジル人の優しさに触れると、人生の勉強になります。
(写真・文/唐木真吾、記事提供/ブラジル余話)