不景気な中でも存在感を示す、ブラジルの投資会社と食品業界

2015年 11月 14日

アンタルチカ

昨今のブラジルは政治も経済も暗い話が多いが、景気のいい話題もある。

例えば、秋に届けられた、ビールで世界第1位のベルギーのアンハイザー・ブッシュ・インベブ(以下インベブ)が、同2位の英SABミラー社を1000億(約11.9兆円)ドル超で買収することで合意したというニュースだ。

ベルギーの会社がイギリスの会社を買収したという話なのに、なぜブラジルで話題に? と思う方もいるかもしれない。

実はこの買収の判断をしたのは、インベブの大株主であるブラジルの投資会社3Gキャピタルである。

インベブの中でも存在感が大きい子会社が、ブラジルのアンベブ。ブラジルのビール消費量は世界第3位で、アメリカ合衆国の消費量の半分、日本の2.5倍であるが、その市場で63.9%(14年)のシェアを持っており、ビールだけで1兆円以上を売り上げている超優良企業だ。

そこに挑戦をしているキリン・ブラジルがシェア13.3%、イタイパーバなどのブランドを持つペトロポリスが続いて11.5%なので、いかにアンベブの強さが突出しているかがわかる。

3Gキャピタルは、ブラジルの所得番付で1位にもなったジョルジ・パウロ・レマンを中心に、ベト・シクピラ、マルセル・テレス・フェシャラムの3氏で1970年代に始めた投資会社である。

ブラジル国内では1982年に小型スーパー「ロジャス・アメリカーナス」を買収し、国内最大、1000店舗以上を有するチェーンに育て上げた。年商は30億(約3580億円)ドルを超え、その高い収益性から時価総額も年間2兆円近い売上高を誇る同国流通首位のポン・デ(ジ)・アスカールグループを凌ぐほどだ。さらに、3Gキャピタルは同国のネット通販のトップであるB2W社も傘下に収めている。

2010年には世界2位の米ハンバーガーチェーンであるバーガーキングを約40億ドルで買収。その翌年には、ニューヨーク証券取引所に再上場させ、自社所有株式の29%を売り出し、約14億ドルを獲得した。

そして、近年では、13年にウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハザウェイ社と共同でケチャップのハインツを買収したが記憶に新しいだろう(ハインツは15年にクラフト・フーズと合併し、「クラフト・ハインツ」になっている)。

今回の買収が成功すれば、世界のビール市場の30%を握り、年間売上高は730億ドルに達する。

14年初めに日本でもサントリー食品インターナショナルを子会社に持つサントリーホールディングスによる米ビーム社の巨額買収が話題を呼んだが、買収額が約160億ドルで、年間売上高もようやく2兆円であることを考えるとスケールが違う。キリンホールディングスも約3000億円を投じて、ブラジルのスキンカリオール社を買収してブラジル市場に参入したが、アンベブ率いる3Gキャピタル社はさらにその先を行っているといえよう。

これまで鉄鉱石や海底油田、バイオエタノールなどの資源で世界に存在感を示していたブラジルだが、近年は食肉やオレンジジュースなど、食品分野で世界のトップ企業が生まれ、その座をアメリカ合衆国から奪い始めている。今後もブラジルの食品分野の動向から目が離せない。

(文/輿石信男(クォンタム)、記事提供/モーニングスター、写真/麻生雅人)
写真はインベブ傘下アンベブの主要銘柄のひとつアンタルチカのビールの街頭広告