ファッションの絵本「ファッションぬり絵」日本語版発売

2016年 03月 10日

トロピカーリア

「歴史といっても、ファッションの歴史ですから、イコール、美の歴史ともいえます。この本でも紹介されている偉大な日本人デザイナー三宅一生さんは、幼い時に被爆体験をされているそうです。被爆体験の影響で『美しいものをつくりたい』という思いが常に自分の中にあり、その思いがデザイナーという仕事を選んだ根っこにあるのだそうです。パウロのぬり絵は、そういったデザイナーたちの美に対する想いや情熱まで伝わってくる作品です」(黛直子)

世界のファッション史を扱っている本なので、特にブラジルだけに特化しているわけではないが、パウロ・アンドレ・フェヘイラのブラジル人ならではの視点も盛り込まれている。

「例えば、背後にトゥッカーノ(オオハシ)が描かれた図柄がありますが、これはブラジルで1960年代末に興ったトロピカリア・ムーヴメントをイメージしたイラストです。もうひとつ、ブラジルのファッションデザイナー、ズズ・アンジェウをモチーフにした図柄があります。ズズ・アンジェウは軍事政権下のブラジルで息子を失い(軍事政権の拷問によって殺害されたといわれている)、これに抗議したズズ自身も謎の死を遂げました。ズズの事件はブラジルの歴史において重要な出来事であり、この物語は映画にもなりました」(黛直子)

イラストだけではなく歴史的な出来事に関する解説も充実していて、読み物としても楽しめる構成になっている。特に日本語版のテキストは、著者の協力を得た上でブラジル版よりも詳細な内容になっている。

「巻末に、各イラストに関する歴史的な解説が載っています。この歴史の解説部分が一番翻訳に工夫をこらしたところなので、立ち読みでも読んでいただけたら嬉しいです。また、表紙に掲載したぬり絵の着色は、ブラジル出身のイラストレーター、ジュリア・ナシメントさんによるものです。日本人好みの色合いで、それでいてブラジル的なエネルギーも感じることができる着色で、とても気に入っています」(黛直子)

「ファッションぬり絵~ぬり絵でたどるファッションの歴史~」(パウロ・アンドレ・フェヘイラ・著/文化出版局・刊)は3月18日(金)発売。

(文/加藤元庸、写真/reprodução/instagram/paulandredesign)