ブラジル個人所得税の留意点 第三回
2018年 07月 2日<教育費、学費控除>
本人や扶養家族の教育費や学費は、課税所得から控除が認められるが制限があることに留意しなければならない。
幼稚園、保育園、託児所などの幼児教育施設に支払う金額や初等教育、中等教育、高等教育に通う扶養者の学校への月謝などの支払額は控除が認められるが、それ以外の教育施設、たとえば予備校や語学学校、音楽学校、料理学校などなどへの支払いは控除が認められない。
また学校で使用する教材や書籍購入費用、通学費用、制服の購入に関わる費用も控除は不可となる。
上記の範囲内で、一定の限度額(2017 年の場合:扶養家族一人あたり3561.50レアル)までの金額の控除が可能となる。
<簡易申告>
納税者は、簡易申告を選択することが認められている。
簡易申告では、年間所得の20%を、個々の費用の証明を必要とせずに、一括控除できる。ただし、上限額があり、2017年では、一括控除できる金額は16,754.34レアルまでとなっている。簡易申告を選択したほうが、控除額が増え、納税額を少なくすることができる場合もある。
<ブラジル中央銀行への海外資産申告>
ブラジル居住者で、海外に12月31日現在、合計10万米ドル以上の資産を保有する法人、個人は、翌年の4月5日までにブラジル中央銀行の電子版フォームで、毎年その内容を、中央銀行に申告する義務がある。
海外資産とは個人の場合は、銀行預金残高、不動産、有価証券などである。日本からの駐在員もいったんブラジルの居住者になれば、日本などにある資産が上記の金額以上になれば申告しなければならない。
この申告は、所得税申告書とは別に行われるが、ブラジル中銀に申告した情報は、連邦国税局と共有されていると想像される。駐在員は、ブラジル赴任期間が終われば帰国するので、申告が面倒だとことで申告していない人もいるようだ。
ただ、経済開発協力機構(OECD)加盟国と共にブラジルも、国際的な情報交換により、課税回避行為を把握しようとしており、注意が必要である。 特に中銀への申告を怠った場合は、申告されていない資産の金額の 10%または 12 万5千レアル(約 45 万円)のどちらか低い金額が罰金となっており、高額である。
<帰国に伴う納税関係の手続き>
ブラジルから帰国、出国する者は、以下のような手続きを行う必要がある。 この手続きを経て、非居住者というステイタスに変わり、ブラジルを源泉とする所得に対してのみ源泉徴収が行われ、ブラジル国外の所得については、ブラジル政府は課税する権限がなくなることになる。
1)一時的ではなく、完全にブラジルを離れる者
ブラジルから出国した日から起算し、翌年の 2 月末日までにブラジル連邦国税局のウエブサイトにアクセスし、電子版で出国したことを通知する。 出国した年の翌年の \3月1日から4月末日までに、同じく電子版で所得税申告書を提出。出国した年の1月1日から出国した日までの所得を申告納税する。納付となる場合は、申告書提出日までに納付する。
2)ブラジル国外に続けて1年以上滞在する者
ブラジル国籍の者が国外に仕事や留学などで長期にわたり滞在するような時が主なケースなので、簡単に要約しておく。
出国した日から起算し、12か月を超える日の翌年の2月末までに出国していることを、上記と同じように連邦国税局に
通知する。さらに上記1)と同様、居住者とみなされる期間に対する所得税申告書を提出する。
<現地で契約社員を雇い情報収集などにあたらせる場合>
ブラジルに現地子会社(駐在員事務所的性格)を設けずに、日本の本社が直接、現地の人を雇い、情報の収集などを行おうと考えるケースでは
①現地で、日本の法人が直接事業を行っているとみなされ、特に課税される可能性はないのか?
②現地労働法との関係は?
という点を確認しておいた方がよいだろう。
参考までに、ブラジルで仕事を遂行する契約社員のブラジル個人所得税に関する事例を紹介する。
ブラジル在住のAさんは、ブラジル国外の法人と結んだ契約に基づき役務を提供する場合は、独立した個人事業者“アウ
トノモ”と呼ばれるカテゴリーであると考え、仕事に係る費用を必要経費として課税所得から控除した。しかし、雇用関係があるとみなされ、必要経費の控除が認められず追徴課税が行われた。
このように、国外の特定の会社だけに行うアルバイト的な役務提供は、個人事業者と見なされないことから必要経費の控除はリスクがあることに留意する必要があろう。
(文/藤原美明、写真/麻生雅人)
写真はサンパウロ市内にある保育園
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